第45話


試験結果は、小一時間ほどの昼休憩を挟んだ後。すぐさま受験生に告知された。


前世から考えると早いが、受験者数も少ないうえ煩雑な事務手続きも無いからだろう。


また、地方から出てきた者に関しては、下手に何日も待たされるとその分だけ滞在費が掛かってしまう。


電話や電報などで気軽に連絡がつく社会ではないうえ。今後の進退にも関わる為、合否は速やかに伝達されるようである。


試験官が、査定の内容と共に合格者を告げる。


なんでも評価の基準は、どれだけの魔力を動かす事が出来たか。だそうだ。


学園所属の教員はすべからく、魔力の動きを見て取れるらしい。魔術師ギルドの持つ技術の一端だ。


個々人が弟子を見込んで育てる徒弟制と比べ、きちんと判断基準を設け複数人の協議によって合否を決めるという、この世界においては実に先進的な体制を取っているようである。


「セントラート魔法学園第66期生、筆頭合格者。………キング氏」


「ふが?」


なんで呼ばれたのかまるで解ってない様子で、父は生返事を返す。


先進的な理論が必ずしも最適な結果をもたらすものではないという、希少な例である。


続く名前は、私とサイレス。上位三席をトロル勢が独占であった。


「な、納得ができるか!」


ざわめきの中受験生より声が上がる。装飾の多い服を着た一団のなかでも、ひときわ豪奢な服装の少年である。


髪が未だしっとり濡れていることから先の試験の被害者でもあるのだろう。


「第三王子たるボクが筆頭を逃すのはまだいい! 学園は実力主義、忖度そんたくなどしないという確かな証明であり。だからこそ、そこで学び研鑽する事は確かなほまれとなるのだからな!」


彼は、憤りも隠さぬまま忌々し気に私達を睨みつける。


「しかし、こいつらの下であるなどと黙って受け入れられるものか! 「私たちはトロル以下です」と、恥さらし以外の何者でもないではないか!」


受験生も、特に貴族服の連中は大半が似たり寄ったりの意見なのだろう。それでいて、入学辞退を申し出るものは居ない。


トロルは受かったのに自分は落ちた、などと名誉を第一とする彼ら彼女らには受け入れられるものではないからだろう。


「実際、私たちトロル以下の腕前しかなかったのだから当然でしょうに」


「なにを、貴様! トロルの、分際、で……?」


折角なので、堂々と勝ち誇ってやってみる事とする。まさかトロルから反論が飛んでくるとは、夢にも思っていなかっただろう王子様は、ものの見事に唖然としている。


確かに、トロルは頭の回らない種族だ。知恵は足りない。気品や知識を求められる試験。ダンスや筆記であったなら、合格するどころか、試験を受ける事すら難しい。


だが、今回の試験において別段不正や詐術いんちきを行ったわけではない。求められた手法とは、若干、少々、そこはかとなくズレてはいるだろうがきちんと正面から突破したのだ。


そこに、「自分が劣っているのが嫌だ」などと我儘を押し付けられればイラっとする。


「大人しく研鑽に励むといいよ。優れた叡智と理性を誇りに思うのならさ」


よりにもよってトロルにことわりを諭されれば、それ以上不満の声を上げるのは憚られる。


トロルよりも理性がありませんと喧伝するも同然の行いだからだ。


ただ単に驚愕で思考がマヒしているだけかもしれないが、一応騒ぎは収まったと見ていいだろう。


試験官の教諭は、これ幸いとばかりに以降の伝達事項を告げる。


「この後、大講堂で入学の式典を行う。その後に入寮だ。部屋割りは―――諸般の事情を考慮したものとする」


ああ、うん。二階以降は床が抜けるだろうからね。そもそもキングの巨体が入る部屋があるのか疑問であるが、それこそ文句をつけてきた少年が使うような王侯貴族用の部屋でも割り当てるのだろうか。


「そして、その……キング氏。主席合格者は、式典で先輩方からの祝辞を受けて答辞を読み上げてもらうのだが。……できるかね?」


「お、おで。そーせーじ? ……くう!」


はらへったと、にこやかに笑う父に悪気は一切ないのだが。流石に式典の間は食堂にでも隔離した方が苦労はないのかもしれない。


丸暗記でどうにか……と、頭を抱えている教員に私はアドバイスを送ることにする。


父は七文字以上の単語は覚えられませんと。

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