⑦-7 再びの約束を、ここに④

 サーシャはそんなティトーに歩み寄り、優しく頭を撫でた。ティトーは顔を上げると心配そうに見上げている。そんなティトーに、サーシャは優しく語りかけた。


「いいえ。充分ですわ。私は参拝の儀式をすればいいだけですもの。そうだ、追加報酬をお渡ししましょう」

「いや、サーシャ。さすがにそれは」


 アルブレヒトが駆け寄ると、サーシャは首を横に振って人差し指を口へ当てた。


「アドニス司教から、直々に追加報酬を渡すという事にしたら良いのです。当然、巫女選定の儀を受けるティトーちゃんを護衛してきたという、追加報酬ですわ」

「さ、サーシャ。教会の資金繰りは大丈夫なの?」


 マリアの心配そうな声に、サーシャは笑顔を振りまいた。くるくると回ると、ティトーに優しく声をかける。


「巫女選定の儀を行えば、それなりに出自は明らかになります。となれば、レオポルト殿下の所在が明らかになるのです。であれば、義兄様の保護をしなくてはなりませんわ。となれば、それが出来るのはアドニス司教くらいでしょう?」

「それは…………。大丈夫なのか? ルゼリア国と教会はベッタリだろう」

「そこまでべったりではありませんわ。今度は私を信じてくださいません事? ティトーちゃん」


 サーシャは胸に手を当てると、片手をティトーへ差し出した。ティトーは一瞬躊躇したものの、その手を受け取った。


「信じます、サーシャおねえちゃんを」

「ふふ。ありがとう。そう云う事ですわ。では、私はこれで。殿下もなにかあれば、遠慮なく申して下さいませ」

「明日はすぐ発つのか」

「そうなると思いますわ。見送りは結構ですので、良くなったら約束の町で再会といたしましょう」


 サーシャは祈るようにゆっくりと目を閉じると、再び目を見開いた。頷くように、一行の顔を順番にじっと見つめていく。


「一週間は安静ですので、一週間はこの屋敷を使えるように手はずと取らせていただきますわ。恐らく、アドニス司教から迎えが来る筈ですので、そこで判断してくださいませ」

「そうか。俺の身分がバレればそうなるか」

「セシュールが王、そしてラダ族族長が長子であるだけでなく」

「ルゼリアの血を引くからな、俺は」

「お兄ちゃん、大丈夫だよ」


 ティトーはレオポルトの手を取ると、アルブレヒトとマリア手招きした。二人は頷きあい、レオポルトの手を取った。


「俺は大丈夫だ、レオ。だから、安心して今は休んでくれ。アドニスさんの事だ、俺の事も上手くやってくれるさ」

「私はあの人信用できないけれど、でも信じてみましょうよ。いざとなったら、私が教会ごと消し炭にしてくれるわ」

「ふふ。そうならない事を祈りますわ、マリア」


 サーシャもレオポルトの手に触れると、レオポルトはついに観念したのだった。

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