第1章6話 幹部登場! 衝撃の事実

制御室にいたロボットを倒した悠の後ろに背丈は悠と同じくらいで鋭い爪と牙のある虎のような見た目をしており、体格に合わないぶかぶかの衣服を身にまとった人獣型の魔物が立っていた。しかし、本来魔物は人語を話すどころか理解することもできないはずである。


 「あんた、魔物なのに人語うまいね。家庭教師でも雇って練習したの?」


 「?違う違う。確かにその辺の魔物は人語を話せないし理解すらできないけど俺ら三王の幹部レベルになると普通に話せるよ。」


 「三王?」


三王とは魔王直属の眷属であり、それぞれが陸海空を統べる魔物の王。その力は1体で国はおろか大陸ごと破壊でき核爆弾を何発も打ち込んでも歯が立たないといわれているが、全容は未だに謎に包まれている。


 「三王って確か・・・お前ら魔物のトップの魔王直属の眷属だっけ?それぞれが陸海空を統べる3体の魔物の王。」


 「お前ずいぶんと賢いな。そう、その三王。俺は、その三王の一角である陸王様の眷属、うしとら。俺はそいつら回収しに来ただけだよ。今日はお前ら人間に危害を加える気はない。本当は師団長っていうやつとやらと戦いたいんだけど陸王の旦那に今はまだ戦うなって言われてるから。」


 「そういえば君、結構若そうだけど名前なんて言うの?お前強くなりそうだし面白そうだから名前聞いときたい。」


 「魔物に教える名なんてない。って言ったらかっこいいんだろうけど、そんなこだわりはないから教えてやるよ。悠だ、夜岸悠。」


 「悠か。」


艮と名乗る魔物のしゃべり方は、新しいおもちゃを見つけた少年のように飄々としているが、全く隙がなく一歩でも動いたら殺されるような殺気を放っている。威圧だけでは新田隊の新田を優に超えている。


 「お前ら魔物は本来俺ら人間なんかよりずっと強いはずだろ。そんな魔物がゴロゴロいるのに魔物の形を模したロボットなんか作っていたのか。必要あるか?しかも、まるで人間みたいに完璧なコンビネーションまでして。」


 「それはそうだろ、人間を材料にして作ったんだから。」


 「は?人間が材料?」


艮の衝撃のカミングアウトに悠は困惑した。


 「そう人間が材料。さっきお前も言ったように魔物は本来お前ら人間なんかよりはるかに強い。だけどな、魔物だけでは限度があることもあるからな。話せるやつらも多くないからほとんどのやつらは複雑すぎる命令を理解できない。その時、あの科学者が来て人間の話を聞いて閃いたんだ。その人間を使ったら今以上に戦力強化に領地の発展につながるって。だから、お前らの世界を侵食した時にある程度生けどりして魔物風に改造したんだ。同じ眷属にそういう能力者がいてね、まさにマッドサイエンティストだよ。」


 「ちなみに君がさっきまで戦っていたコウモリ型は双子の殺し屋を材料にコウモリの特性と殺傷能力を強化して作ったやつだよ。本当は諜報員みたいな感じにしようとしてたらしいんだけど体が大きすぎて無理なんだってだから、殺傷能力強化の方向で作ったんだって。」


その話を聞いて悠は納得した。ロボットにしては完璧といっていいほどのコンビネーションに的確に悠の急所や死角を狙った動き。プログラミングだけでは説明がつかないほどの正確さ。


 「とりあえず、そいつらは回収するよ。回収できなかったら俺が怒られるからね。」


艮は、電気ウナギ型とコウモリ型に向かって右手をかざすと、黒い霧が足元に発生して電気ウナギ型らを吸い込んだ。


 「あぁ、初めて見たんだったな。俺の能力はいつでもどこでも掌をかざすだけで黒い霧発生させられる。もちろん大きさも自由自在。いつでも魔物どもを何体でも何十体でも際限なく召喚するできる。初対面を祝した土産だ。こいつらの遊び相手をしてくれや。」


艮は、大きな黒い霧を発生させ大量の魔物たちを召喚した。


 「陸王眷属【四門】が一人、『鬼門』の艮。いつかお前と戦えることを楽しみにしてるぞ悠。まずはこの状況で生き延びてみな。」


艮は黒い霧で帰っていき、制御室は大量の魔物で満たされた。悠はすぐさまに制御室を出て校舎の外へ向かい、千秋に通信をつないだ。


 「千秋さん聞こえる?」


 「はい聞こえます。どうしました?」


 「ごめん、ちょっと詳しく説明する暇がないから端的に説明するけど制御室に魔物が出現したから訓練は中止だ。教官室と通信をつないでくれ!」


 「!わかりました。数秒だけお待ちください。」


千秋は悠の声から緊急であると察し、すぐに通信を繋いだ。


 「こちら教官室どうした?」


 「1組の夜岸です。緊急事態発生、オペレーター棟にて魔物が大量発生。魔物の数は目視で確認できるだけで100体以上。至急応援を求みます。」


 「現在、制御室より逃走中。近くのグラウンドまでおびき寄せています。」


 「了解した。少し持ってくれ、すぐに応援を派遣する。」


 「了解。」


悠が魔物をおびき出しているころ、翔と向日葵はまもなくオペレーター棟へ到着するころだった。


 「やっとつながった。翔っち、翔っち聞こえる?」


 「姉崎さん!通信が使えるようになったの?」


 「そうみたい。使えるようになったのは朗報だけど残念なお知らせもあるの。緊急事態、オペレーター棟の地下3階の制御室に魔物発生。数は100以上今は1人の生徒が対応してるみたい。教官から伝令でオペレーター棟付近にいる生徒は、師団員が現場に到着するまで応戦せよって。」


 「なんでそんなところから魔物が出現してるんだ?・・って1人で対応してる!流石にそれは無茶すぎる。向日葵行くぞ。もうすぐ着くから加勢しよう。」


 「えぇ、行きましょう。」


悠はなんとか逃げ切り近くのグラウンドまで出て迎え撃つ体制を整えた。魔物たちも続々と校舎から出てきた。


 「おいおい、制御室じゃあ暗くて見にくかったけどほとんどが人型か人獣型じゃねえか。ひとりでいけるかな?千秋さん師団員が来るまであと何分?」


 「教官の話によると師団員が応援に来るまで後10分程だそうです。あと5分程度で近くにいる生徒が加勢に来ます。」


 「最短で5分か。OK。千秋さんは周辺を警戒してて、別の魔物が来たり状況が変化したりしたらすぐに報告して。」


 「わかりました。」


悠は腰に携えていた刀を抜き、構えた。


 「やってやる。」


戦闘を開始して5分後、翔と向日葵が悠が戦闘しているオペレーター棟のグラウンドに到着した。


 「何あの量の魔物。見た感じ100どころじゃないわよ。翔、あれ悠だよ。」


現地に到着した翔たちが目にしたのは耳から血を流しながら四方八方からの繰り出される魔物たちの攻撃を刀1本で捌き続ける悠の姿だった。悠は翔たちが到着するまでの5分間自分の聴力に意識を集中して魔物たちの攻撃を捌き続けていた。翔たちは悠のその姿を見て圧巻されていた。


 「翔っち、助けないと多分もうあの子長く持たないよ。倒れる寸前。」


京子の言葉に我に返り、向日葵と悠の加勢に向かった。


 「悠大丈夫か!もう少し耐えてくれ。」


悠は翔の言葉に軽く頷き、戦闘を再開した。だが、悠はワニ型とコウモリ型との連戦からこの戦いは体への負担が大きく、視界はぼやけ刀を握る握力もいつなくなるかわからない状態でもうふらふらとしていた。今にも倒れそうな時に死角から魔物の突進攻撃に悠は反応ができなかった。


 「悠、危ない!」


翔が悠を庇うため前に出て、今にも攻撃があたりそうになった時、どこからか冷たい空気が流れた。


 「よくがんがったな、翔。俺から離れるなよ、あとは任せな。」


 「氷室師団長!」


氷室が現れた時、魔物たちは氷室に向かって一斉に襲い掛かった。


 「おうおう、熱いアプローチだねぇ。モテ期かよ。けどな、魔物にモテても仕方がないからその熱冷やしてやるよ。」


 『八寒地獄はちかんじごく安部陀あぶだ


氷室が1体の魔物に触れると魔物は瞬時に全身凍り付いた。そして、氷室が放った冷気は凍り付いた魔物から数珠つなぎに周りにいた魔物に伝わっていきその場にいたすべての魔物が凍り付いた。100以上いた魔物が全て凍るのにかかった時間はゼロコンマ数秒であった。


 「ちと冷やしすぎたかな?」


 「おい翔、隣のやつは・・・大丈夫そうだな。」


翔は悠に目をやると目を覚ましてはないが息はあり気絶しているだけのようだった。


 「よかった。」


 「翔!悠!大丈夫?」


離れて援護していた向日葵が駆け寄ってきた。


 「ああ、息はあるよ。気絶しているだけっぽい。あれだけの量の魔物と戦っていたからしょうがないよ。」


 「よかった。私たちが行ったころには耳から血を流しながら戦っていたから。」


 「とりあえず、皆がいるところに行ってな。点呼しているところだろうから。」


 「わかりました。」


翔と向日葵は氷室に悠のことを任せて点呼をしているところへ向かった。


 「本当に頑張りすぎだよ。お前は。」

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