空の下の猫

紙の妖精さん

第1話 秘密の花園

午後の公園は、穏やかな日差しに包まれていた。木々の間からこぼれる陽光が、緑の葉の間を縫うようにして、地面に温かな模様を作っている。遠くでは子供たちの楽しそうな笑い声が響き、カラフルな風船が空に浮かんでいた。しかし、その場にいる佳奈は、その景色とは対照的に、どこかぼんやりとした表情でベンチに座っていた。


佳奈は、その日も病院から抜け出して、公園で過ごすことにした。毎日の治療と薬の副作用に疲れ切っていた彼女は、病気の進行に対する諦めの気持ちが心に巣食っていた。外の世界が生き生きとしている一方で、自分はその外界から隔絶されているような感覚を覚えていた。


彼女の視線は、公園の片隅にある小さな花壇に向けられていた。そこには、色とりどりの花が咲き誇り、蝶々や蜂が忙しなく飛び交っている。その花壇は、公園の管理者がボランティアとして整備しているもので、毎日たくさんの人々が花々に癒されている場所だった。


佳奈は静かに立ち上がり、花壇に近づくと、その花々に手を伸ばした。花の香りがほのかに漂い、手のひらに触れると、その柔らかさと温かさが彼女の心に微かな安らぎをもたらした。彼女は、そんな花々の中で、ひときわ目を引く一輪のマーガレットに気がついた。それは、どこか優雅でありながらも力強い花で、彼女の心を惹きつけた。


「もしこの花が、私の病気を治してくれるなら…」佳奈は小さく呟いた。その言葉には、どこか夢物語のような願いが込められていた。花の柔らかな花弁に触れながら、彼女の心は次第に、少しずつ希望を取り戻していくような感覚を覚えた。


彼女は花壇のそばでしばらく佇み、陽光と風の心地よい感触を楽しんでいた。その時、目の前に一匹の猫が現れた。猫は、まるで彼女の気持ちを察するかのように、ゆっくりと歩み寄り、佳奈のそばに座った。猫の瞳は、まるで彼女の内面を見透かしているかのように深い色をしていた。


佳奈は驚きながらも、その猫に微笑みかけた。「こんにちは」と、彼女はささやくように言った。猫は静かに応じるように、彼女の顔を見上げ、穏やかな表情を浮かべていた。公園の中で、ひとときの心の安らぎを求める佳奈にとって、この猫の存在が、彼女の心に新たな変化をもたらす予感を感じさせた。

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