第20話 来訪。


 声が出せないままフィーの了承を得ようと視線を向けると、フィーは即座に「嘘ぉ!」と両手で口元を覆い、幸せに満ちた顔で喜びを表し大きくコクコクと頷いた。

 それを見て、私もメイドに了承を伝えると、来た。ドドーン!という打楽器と、悪役が登場する音楽が私の中で大きく鳴ったような気がした。

 兄さんたちが颯爽と扉から入ってきた。


「な、何その格好……」


 兄さんたちが近年あまり見ることのなかったきらびやかな正装に近い格好をしていたのに驚き、挨拶も忘れて驚きが先に声に出てしまった。


「ニナ、お前こそ何やってんだよ。ここは妹を泊めてくださってありがとうございますぅ!きゃー!とか言ってられる場所じゃねーんだよ、解ってんのかよ」

「で、ですよねー……、はい、解ってます。でも気を失っている間に運ばれてしまって」


「気を失うぐらいなら、助けんなって」

「え! 兄さんだってそんな場面に遭遇したら勿論助けるでしょ?」


「俺は気を失わずに助けられるからいいんだよ。海はちゃんと専門の訓練を受けたレスキューの人とかいるんだから、自分の能力を過信して勝手に助けて迷惑かけるなら、ちゃんと助けられる人を呼びに行くべきだったのでは?」

「あ……、はい、ご、ごもっとも……」


 ひたすら口ごもって体制を低く低くする私をよそに、フィーは立ち上がって兄たちに椅子をすすめた。はっ、ねん挫している人を立たせてしまった…、ごめん。



「あ、ありがとうございます、お気遣いなく。もう帰るんで」


 そこで申し遅れました、お久しぶりです……とフィーと兄さんたちとで挨拶が交わされた。

 ジェス兄さんの声、久しぶりに聞いた。そっか、この人たちは初対面じゃないんだ、九年前に顔を合わせてるんだ。


 それにしてもフィーに対する口調と、私に対する扱いが全然違いすぎる……、ううう。


「もう帰るってまたそんなこと言って……、あ、そういえばどうやって来たの?」

「転移魔法」

「うわ……、ごめんなさい。とんでもなく魔力使うやつだ。あ! 私の魔力いる? 分けようか?」

「いらない。ある程度回復したらすぐに帰る」


 あ、無言のジェス兄さんがラディ兄さんの後ろでひっそり背中に手をあてている。たぶんあれでラディ兄さんの魔力を整えてるんだろうな……。


「そういえば、ニナ、倒れたってもう体調は大丈夫なのか?」

「うん。でも、それ聞くの遅くない?」


「だって見た目ぴんぴんしてるし。魔力起こして貰ったのは? 大丈夫か?」

「うん、二回に分けてやって貰って大丈夫だった」

「ふうん」 


「そうだ、私が昨日兄さんの魔力を使ったのって解ったの?」

「そりゃあ、あんだけ大きなの使ったら。でも離れていたし、ちょっと確信がなかったから確認しようと昨晩通信機繋ごうとしたのにお前は出やしないし。そうしたら今朝、南から緊急の連絡が入って報告を受けて。来るしかなくなったんだよ」


「すみません……」

「悪いと思っているなら、今すぐ北の当主を継いでくれ。俺は引退するから」

「無理です」


 フィーが無言のまま、私の隣に移動して座ってぽかんと私たちを見ていた。


 ホテルに荷物を取りに行って貰っていて、あと数泊ここに居るともりだと言ったら本気でこのまま連れて帰られそうだ、ヤバい。むしろ早く帰って貰いたくなってきた、どうしよう。



 その時、扉が再びノックされたので「どうぞ」と言うと、アークとヒューがきっちりした格好に着替え、緊張した面持ちで入ってきた。二人とも格好いい。

 二人は兄さんたちに格式ばった挨拶をすると、すぐ南のご当主もこちらに戻るから部屋を移動してくださいと告げられて。ああああああ、どんどん大事になっていく……!!


 しかし、フィーはともかく、ヒューもなんでそんなキラキラした目で兄さんたちを見ているんだろう、ううう。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る