第7話 ヨクドリアの訴え

 アリテリオ帝国のお城には虎の銅像が二体大きな門の前に飾られていた。ヨクドリアは、城下町からの橋を渡り、城門に立つ2人の門番に槍をクロスされる。


「何者か! 許可のない者を通すことはできない」

「……俺は、生まれも育ちもアリテリオ帝国のヨクドリア・シリオットだ!」

「いくらこの国の者でも王の許可が無ければ入れない!! 帰れ」

「なんだって。許可ならしてる!! 俺のこの体についた傷を見てもらうという許可だ」

「どういうことだ?!」

「この間、お前たち兵士は、我が家の店をぐちゃぐちゃに破壊して、母さんや父さんを傷つけた。その弁償をしてもらいに来たんだ!! どけろ。王様に訴えてやる!!」

「そんな証拠どこにあるんだ。どーせ、でたらめ言って中に入ろうとしているんだろ。許可などできぬ!! 帰れ!!」


 2人の門番は、ぐいぐいと体を押してくるヨクドリアを必死で跳ね返した。地面に膝をついて倒れても、諦めずに何度も中に入ろうとする。


「しつこい奴め!!」

 門番が持っていた槍がヨクドリアの頬を切る。線をかいたように血が出てきた。


「やったな!!」


 切れた頬の血を拭って、すぐに血の気の多いヨクドリアは、やられたらやり返すの精神で門番に立ち向かう。乱闘騒ぎが城の前で始まった。城の中からたくさんの兵士たちが駆けつけて、乱闘をとめるのに必死になった。原因を作ったヨクドリアは城の中に運び込まれて、牢屋に入ることになった。


 分厚い扉をガンガンたたいて、開けてもらおうとするが、ビクともしない。部屋の中には、さっきの喧嘩を門番が一人膝を抱えて座っていた。あちこちにケガをしている。自分の体をよく見ると、頬ではなく、足や手もケガをしているのに気づいた。


◇◆◆ 


「なんで、お前と一緒に牢屋に入らなくちゃいけないだよ!!」

「それは、こっちのセリフだ!」

「もうすぐ昇格試験があって、門番から脱出できたはずなのに。お前のせいだ!」

「な、何を!? 自分の実力のせいだろ。真摯な対応をしないからだろ。こんな大人しい町人いないだろ?」

「どこがだよ!!」


 声にエコーがかかった。部屋は急に静かになった。外では大砲を鳴らす音が響いている。演習訓練が始まっているようだった。

 門番は、小さな窓から外を覗く。


「俺もあれに参加したかったなぁ」

「……戦争に参加したいだなんて、頭おかしいじゃないか。死に行くようなもんだ。バカがすることだ」

「国のためにするんだ。バカじゃない。人を守るためだ」

「……自分を犠牲にしてまでか?」

「それが兵士の務めだ。俺がしたいことだ。バカにするな」


 門番は遠くで聞こえる大砲がまるで花火を聞くかのように喜んでいた。ヨクドリアは、その行為が不思議でたまらない。明日は我が身。いつ他国が攻めてくるかわからない戦国時代にこの門番の思考についていけない。死と隣り合わせの世界なんて絶対ごめんだとヨクドリアはため息も漏らす。そこへ、大きな音を立てて、分厚い扉が開いた。


「ヨクドリア・シリオット!」

「……うへ? 俺っすか」

 目深に帽子をかぶった兵士が呼ぶ。


「王様がお前を呼んでいる。早くしろ」

「まさか、王様が俺を呼ぶなんて、そんなことありえないだろ」

「いいから、つべこべ言わずに着いてこい!!」

 

 ヨクドリアは2人の兵士に両腕を抱え込まれた状態で王座の間に行くことになった。生まれてこの方、城の奥の部屋などに入ったことがなかったヨクドリアにとって、まさかと心躍っていた。何をされるかなど想像もしなかった。一緒の牢屋に入っていた門番は、ヨクドリアを羨ましそうに見つめ、バタンと勢いよく扉が閉まった。




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