笑顔
「………さん、……さん」
私は誰かに名前を呼ばれた気がして瞼を開く。
目を開けると心配そうなミミの顔が見えた。
「……ミミ?」
「良かった……呼んでも全然、目開けないから」
「あ……ごめん。寝てて……」
明らかにホッとした顔のミミの頬に、つい手を伸ばしてしまった。
ミミは少しピクッとしたが、私の手から逃げる事なく受け入れる。
私の目に映る私の手……。骨と皮だけ。あぁ……いつの間にこんなに痩せてしまったんだろう。
「どっか痛い?」
「ううん。大丈夫」
「何か飲む?」
「……いらない……かな」
また瞼が重たくなってきた。……もう目を開けていられない。
ミミの頬に寄せた私の手が、とてつもなく重く感じて、力を抜くと、操り人形の糸が切れた様に、私の手はポスンと布団の上に落ちた。
「おばさん!!お……さん!!………さん!!」
ミミが私を呼んでいる。目を開けたいのに……ごめんね、無理なんだ。もう……無理なんだ。
段々と体が水の中に沈んでいくように、重く……そして苦しくなってきた。
早く水面に上がりたいのに……手にも足にも重りをつけらているのかな……思う様に動かない。
……苦しい……苦しい。息をしたい。誰か…………。
……あれ?水の中なのに何故か温かく感じる。
けどまとわりつく水のせいで手も足も動かないのがもどかしい。
遠くで誰かの声が聞こえる。
水の中だと上手く聞こえないな……。もう少し大きな声で喋ってよ。だって貴方の声を……言葉を聞きたいから。もっと聞かせてよ、貴方の声を。貴方の声は……とても心地良い。落ち着くの。
この声……誰の声だっけ。泣いてるの?
泣かないで……貴方が泣くと、私も何だか悲しくなっちゃう。
ミミ………。
あぁ……この声は、泣いているのはミミだ。
ミミ、泣いてるの?頭を撫でてあげたいのに、私の手はもう動かない。あの時撫でたミミの少し硬い髪の感触を覚えてるよ。
もうミミを慰めてあげられないね。きっともう、お別れなんだ。
ミミ……泣かないで。
あぁ……そうだ。笑わなきゃ。笑顔でお別れするって決めたじゃない。
私は最後の力を振り絞って、口の端を上げる。
もう私が動かせる場所は殆どない。自分の体が丸太ん棒になったみたい。
ねぇ、ミミ、私、笑えてる?今の私にはこれが精一杯なの。
耳元にミミの声が聞こえる。
『まだ逝かないで』
『お願い目を開けて』
ごめんね、それは無理みたい。
『ありがとう』
『あの時の、俺に出会ってくれてありがとう』
こちらこそだよ。私もミミに出会えて良かった。
貴重な時間を私にくれてありがとう。
あぁ……段々とミミの声が遠くなる。
本当にお別れだよミミ。
『最後に聞いて……俺の名前は…………』
ミミの名前……結構、カッコ良いね。
ーさよなら、ありがとう……大好きだよー
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