覚悟

「それとね……私がモルヒネを使う様になったら、直ぐにお兄ちゃんに連絡して」


「……直ぐに?」


「うん。これは母の時の経験だけど……モルヒネを使ってから一日しか保たなかったの。私も多分……」


そう言った私の言葉に、ミミの顔が強張った。流石に、私も口に出すのは勇気が必要だったから、ミミの反応は当然だ。


「それ……使うのって何で?」


「痛みを取る為と……呼吸状態が悪化した時の為。多分、その時はもう昏睡状態だと思う」


「…………………」


ミミの方が痛みを我慢しているかの様な表情だ。


「私の為に使うの。だって痛いのも苦しいのも嫌だもん」

と私は笑顔を見せた。ミミはまだ痛みを堪えているみたいに苦しそうだ。


ミミ……ごめんね。でも一緒に覚悟して欲しいんだ。


「母がね、昏睡状態に陥ってから凄く呼吸が苦しそうで、モルヒネを使用する事になったの」


私は黙っているミミに話しかける。


「でもモルヒネ使ってからは、凄く表情が穏やかになって。耳元で『苦しい?』って聞いたら、首を横に振ってくれたの。それだけで、私、ホッとしたのを覚えてる。ずっと痛みや苦しさに耐えて……最後の記憶がそれって辛くない?最後に『痛い、苦しい』って思ったまま死んでほしくなかった。だから、私も最後にそんな思いを我慢するのは嫌だな」


ミミに理解して欲しくて。だって私は笑顔で最期を迎えたい。


「昏睡状態でも言葉ってわかるの?」

ミミは少し不思議そうに私に尋ねた。


「そうみたい。母の時に看護師さんに言われたの『耳は最後まで聞こえるから、ずっと話しかけてあげて下さい』って」


「そうなんだ」


「だから、最後に母には何度も『大好き』『お母さんの子どもに生まれて良かった』って伝えたんだ」


「……子どもにそう言われるのって……親として嬉しいだろうな」


「母がどう思っていたかわからない、私の片思いで一方通行の想いだけど、届いてると良いなって思うよ。あ!ミミも最後、私に『大好き』って言ってくれても良いよ」

と私がおどけて言えば、ミミは、


「言わねーよ」

とそっぽを向いた。




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