優しく流れる時間

ミミはあれから、少しずつ絵を描いているようだ。


「今まではデジタルで描いてたけど……アナログも良いな」

と紙に鉛筆を走らせる。


私はミミが絵を描いているその横顔を見るのが好きだ。

彼の絵が出来上がっていく様を特等席で見る事が出来て、とても得をした気分になる。


ゆっくりと時間が過ぎていく。

この時間が永遠に続けば良いのに……と欲張りになる自分に少し呆れた。

あんなにミミの時間を奪う事を躊躇っていたくせに……人間とは欲張りな生き物だ。


ミミの手元を見ていた私に、


「そんなに面白い?絵を描くの見てるの」

とミミが苦笑する。


「うん。私、壊滅的に絵が下手だから、尊敬する」


「じゃあ、何か描いてみてよ」

とミミが私に紙と鉛筆を手渡した。


手に少し力が入りにくくなった私は、鉛筆を落とさない様に、握り直す。


少し震える線で、私は絵を描く。『絵』なんて立派な物ではないが、何とか描けた。


「はい」

と私がミミにそれを手渡すと、ミミはにっこり微笑んで、


「うさぎだな」

と呟いた。


小学生の子どもが描いた落書き程度のそのうさぎは、左右の耳の長さも不揃いだ。

でも、ミミにはちゃんとうさぎだと理解出来た様で私も笑顔になる。


「良かった『クマ』って言われなくて」


「ちょっとだけ悩んだ」

なんて、少しだけ皮肉っぽく言うミミの目がちょっと赤く見える。その様子がますます彼をうさぎっぽく見せていた。



日に日に弱っていく自分に見て見ぬふりをする。


いつまで自分は自分でいられる?


いつまで私はミミの側にいられる?


それは神様にしかわからない。


いつもは神様の存在を忘れているくせに、都合の良い時だけ思い出す人間に、神様は力を貸してくれるだろうか?


神様、一日でも長く、一時間でも長く、一秒でも長く。私が私でいられますように。


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