蝕まれる体

それから私は横になっている事が増えた。

足に力が入りにくくなってしまったからだ。

トイレに行くにも一苦労で、這って行こうとするのだが、ミミに見つかると、抱き上げられてしまう。


最近は食べ物もなんだか喉を通りにくくなった気がする。

もうカフェに行きたいと思うこともなくなってしまった。


「い、痛い………っ」

激しい腹痛に襲われて、ベッドの脇に置いてある藥袋から薬を取り出そうとするも、痛みのせいか、手が震えて藥袋ごと薬を取り落としてしまった。

薬を拾う為にベッドから降りる。


『ドタッ』

足に力が入らなくて、膝から崩れ落ちてしまった。床に手をついて起き上がろうとするも、腹痛のせいで意識まで朦朧としてきてしまう。


廊下を走る足音が聞こえ、部屋にミミが飛び込んできた。


「どうした?!」


「……痛い……」


床に蹲った私をミミが抱きかかえてベッドに乗せる。


「救急車呼ぶ?」

私の顔を見てミミは心配そうにそう言った。きっと私の顔色はそれほどに酷いのだろう。

私は首を横に振る。


「じゃあ車で病院に行こう。これは譲れないよ?」

と言うミミに私はコクコクと頷いた。流石に私もこのままでは意識を失うかもしれないと考えると否定する事は出来なかった。


私は助手席の背もたれを倒し運転席に背を向け、ほぼ横になる形で車に乗り込んだ。申し訳程度にしかならないがシートベルトをつける。


ミミは運転しながらも、片手で私の背中を撫でる。


「痛い?」


「うん」


短い言葉の中にミミの気持ちが溢れてる。……心配をかけてしまった。


私はどうにか意識を保ちながら、病院に辿り着く事が出来た。


ミミは駐車場に車を停めると、


「車椅子借りてくる」

と言って、受付に走って行く。

私にそれを拒否する元気はもうなかった。




「黄疸も少し出てるね。腹痛もあるみたいだし、痛みを取る治療はしても良いよね?」

医師は私に確認をとる。


化学療法を拒否した私だが、痛いのも苦しいのも出来れば味わいたくない。


「先生……わがまま言ってごめんなさい」


「病気というのは人を弱くも強くもするよ。甘えていい。それを受け止めるのも僕達医者の仕事だ」


私はこんなわがままな申し出を受け入れてくれている医師に感謝した。扱い難い患者だろう。


……そのまま私の入院が決定した。




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