『アイリの不調と、ディアの心配』(3)

いつの間にか夕方過ぎになり、ここで補習は終わった。

アイリが机の上を片付けていると、隣のリィフが話しかけてきた。


「アイリ様は、ディア先生に乗って帰るんやろ?ええなぁ〜」


アイリが、魔獣の姿のディアの背に乗って登下校する様子は、この学校では周知。

今や名物のような扱いになっていた。


「うん。えっと……リィフちゃんの家は、どこなの?」

「ウチの家は城下町にあるんや」

「城下町なんだ。私のお城から近いね」


アイリの言う『私のお城』とは、アイリの自宅である『魔王の城』の事を指す。


「商店街に魔道具屋があるやろ?あれがウチの実家やねん」

「えっ、あぁ、あのお店の娘さんなんだね……!」


アイリにとって城下町は地元の商店街の感覚なので、ほぼ全ての店を把握している。

ここで、帰り支度を済ませたディアが、二人の会話に割り込んできた。


「外はもう薄暗いですから、リィフさんも一緒に帰りましょう」

「えっ!?ウチもディア先生の背に乗ってええんですか!?」


アイリは咄嗟に机の上に視線を移して、なぜか浮かない顔をしている。


「はい。リィフさんの家までお送りします」

「やったぁ!ありがとうございます!めっちゃ嬉しい、感激〜〜!」


大げさなリィフの喜びようを横目で見たアイリは、顔を伏せて唇を噛み締めた。

……まただ。また、変な感じがする。

ディアに他意はなく、誰にでも優しいのは分かってる。

城下町なら帰り道の『ついで』に寄れるから、何の負担もない事だって分かる。

分からないのは……ディアがリィフに優しくする度に感じる、この不快な心のモヤモヤ。


そうして3人は一緒に昇降口を出て、薄暗い校庭の真ん中まで歩く。

そこで立ち止まり、ディアが魔獣の姿に変身する。

コウモリの羽根を持つ、巨大な黒い魔犬の姿を間近で見たリィフは感激の声を上げる。


「うわ〜!めっちゃカッコええ!!羽根のある魔犬ってレアなんちゃう?」


ディアは魔獣の姿になると言葉が話せないので、代わりにアイリが答える。


「え?えっと……そうなのかな……?」


アイリは生まれた時からディアと一緒に暮らしているので、見慣れてしまっている。

言われてみれば、羽根のある魔犬なんて、ディア以外に見た事がない気もする。

もしかしたらディアは、希少種の魔獣なのかもしれない。

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