第24話 ミッキーの鼠日和

 俺は偉大なる陰陽師芦谷堂満の子孫だ!!

 はーはっはっはっはっ!!


 吹きすさぶ天井の穴を見上げて印を結び


【修繕!!】

 と唱えると天井は静かにバキバキと戻っていく。はぁ、よ、良かった。大家さんに見つかったら殺されるところだ。


「くっ!あんの土御神の子孫めえええ!!」


「今は土倉優平と言うんで隙間風」


「うるせえ!!あの野郎!よくもこの俺がわざわざ明日の夕方って書いたのにあんな鬼より恐ろしい顔して乗り込んできて、マジで殺そうとしてきたぞ!?あいつイカレてるぜ!」


「お嫁さんの鬼質なんか拐ってくるからです夜祭り」


「ふん!確かにあの鬼は美しかった!!並の男なら大抵惚れまくる所だろう!まぁ俺も危うく鬼なんかの色香に負ける所だったがギリギリ理性は保ってたしな!」


「ギリギリとか…クズですねこの野郎」


「おい、何でそこはダジャレじゃないんだよ!語尾!」

 とイドミを睨むとツーンとした。


「そもそも私と言うナイスボディな白衣の鬼を従えおいてご主人は浮気する軟式テニス!」


「そもそも俺はお前の恋人じゃあない!というか昔俺の家が医者だったからって白衣持ってくることないだろ!もう潰れたし、借金の方に取られたし両親は逃げて妹は親戚に引き取られ…俺は何とかギリギリの生活だけど…」

 と真面目に話すとイドミは


「光邦様…頭がいいのに…学校にもほとんど行けず可哀想…本当は医者になれるというか、医者になるのが夢なのに…お可哀想です」

 と真面目に返した。いつもはミッキーとか言うのに。


「何だよ…そんなもん…無理だ。家潰れたんだから。明日は建設のバイトあるし早く寝ないと…」

 とガラリと押し入れを開ける。上の段がイドミで下が俺だ。

 しかしイドミが後ろからガバリと抱きついた。

 ふあっ!こ、この野郎!!

 …いや野郎じゃないか!でっけー胸押し付けんなバカ!

 お、俺は鬼なんかに惑わされん!!鬼は使役して使うもんだ!!


「おい、離れろバカ」


「光邦様…このイドミ…例え報われなくとも必ずや光邦様の愛しい方を見つけて参りますよ!……それまでは…私目で我慢してくださいね」

 とギュウとだから押し付けんなバカ!!


「ううう、うるさい!我慢って何だよっ!変なこと言うな!さっさと寝ろ!」


「光邦様…お可哀想に…貧乏で…エロ本すら手に入らないから…どうぞ私で妄想を繰り広げてくださいませ」

 と言われてぶっと鼻血が出た!!

 急いでトイレに駆け込んでトイレ紙を鼻に詰めた。


「お前!ティッシュ切れてんだから!後、トイレ紙の無駄だろ!!………くっそー!あの新しく出来たスーパーの開店セールに行くつもりだったのに途中で土御神の子孫と出会ったのが悪かったのか…」

 あの日ほんとは開店セールに行くつもりだったのに!安いのいろいろ買えなかったし。だってあんな捨て台詞残して消えないわけには行かなかったし!電話番号も渡されたし…その後繋がんなくて出鱈目だって気付いて意味なかったけど!!


「もう土倉優平と関わると酷い目見ますから諦めます蟹?」


「ふん!まさか!!この俺様が諦めるわけないだろ!?鬼娘は明らかにあいつの弱点じゃないか!絶対に御先祖の無念は俺が晴らす!!」


「………そうですか…では私も力をつけなくてはなりません。お腹空きますね。不栄養で私のこの豊満の胸が無くなりそうです…。やはり風俗で稼いで…」


「何言ってんだ!?そんなのダメに決まってんだろ!!」

 するとイドミはぽっとなり俺に抱きついてキスする。


「んんっ!!」

 ドンと離すと…ちょっとしゅんとした。


「やめろ馬鹿者!俺は鬼には惑わされない!!」


「……判りまし単語、お休みなさい」

 とイドミは上の段に飛び乗った。チラリとパンツ見えてまた鼻血出た。


 くっ!!俺は絶対惑わされん!このドキドキも錯覚だから!鬼の妖術だからっ!!

 と下の段に潜ってさっさと寝た次の朝、悲劇は起こった。


 何だチュ?


 えっ!?チュって何チュ?何で俺様は語尾にチュってつけてんチュ?


 て言うかなんか視界が変だチュ!?


 そろりと布団から出ると全裸でパジャマが脱げてるチュ!ていうかパジャマデカイでチュ!


 ていうか…ていうか!!!


 俺様!!鼠になってまチュー!!


 そこでガラリと押し入れを開けて目を擦るイドミに見つかったっチュ。


 い…イドミ。


「あら…これは呪われて鼠になってますね…ミッキー様」


 ええええええ!!!か、仮にも呪い専門の陰陽師の俺が!!あのクソ陰陽師に呪われたでチュか?


「チュー…」

 するとイドミは


「お腹にカウント文字があります天丼。これ7って書いてあるから呪いが解けるのは7日後ですよ?ミッキー様…」


 そそそ、そんな!建設バイトが!!ヤバイでチュ!もう時間が!


「今日は私が代わりに働いて来ますから、後で仕事終わったら土倉家に菓子折り持って謝罪にいきましょう、そして元に戻してもらいましょう、それしかないですよ」


 なっ!何で俺がそんなことしないといけないでチュウ!?


「じゃあ、戻らなくていいんでスイカ?このまま7日も鼠だとお金稼げま千円」


 くっっ!!わ、わかったでチュ…謝罪に行くでチュ…。情けないでチュ…。


 するとイドミは俺を掌に乗せてチュッとキスするとテーブルに置いて水やおトイレはここでと鼠用のトイレ用に雑草を入れた牛乳パックの空やパンの耳のご飯とかハンカチのベッドを置いて俺の代わりにハードな仕事現場に向かった。あんなデカイ胸した女が男の現場に行くなんて!!…まぁイドミなら力強いからセクハラしてくるやつは返り討ちに合うだろうチュが。


 イドミが行ってモゾモゾパンの耳を齧る。

 別にイドミの心配はしていないっチュ…。

 すると外からカリカリと窓を引っ掻く音がしてそちらを見ると何と野良猫が俺をギラリと見ていたチュ!


 ひいっ!!いつもなら可愛い猫でチュが!今は俺は鼠でチュ!やめろ!カリカリすんなでチュ!怖いっ!!怖いでチュ!!


 恐怖と闘っているともう1匹野良猫が寄って来て、また一匹と増えて俺を窓の外からギラギラ目を光らせ眺めているという恐ろしい時間が過ぎたでチュ!!


 ようやくイドミは仕事から帰り


「なんか猫がいっぱいいますネコ。可愛いインド象!」


 いいから!猫でもインド象でもいいからさっさと土倉家行くチュー!


 と謝罪の為に土倉家に行くと何とか入れてくれた使用人はあいつを呼び出したでチュ。

 イドミが菓子折りを渡して謝罪に来たと言うと、ジロリとあいつは俺を見た。側にあの鬼嫁がいたけど、驚いていたが一言も喋らなかったっチュ。


 すると土倉優平は紙を取り出して


「これ、契約書だよ。今後一切僕のお嫁さんにちょっかいかけない、話さない、触らない、あんまり見ない、後、やたらと勝負しに来ない、悪戯しない、それから…僕の下僕になってもらうという約束の契約書だよ?これにサインしないと…元には戻さないけどどうする?」

 とにこりと昨日とはまた違う恐ろしさを感じたチュー!


「どうします?ミッキー様…」


 くっっ!!あああ!!!

 判ったよ…約束すればいいんだチュ…


 こうして俺は奴の下僕になり何とか元の姿に戻った。全裸で。一応奴は親切に自分の服を貸してくれたけど、イドミやあの鬼嫁にもしっかり見られてしまい俺はもう俯くことしか出来なかった。


「ミッキーくん…。君んちのこと少し調べたよ。すっごく大変なんだね?良かったらいい仕事を紹介しようか?」


「えっっ!!?マジか!?………い、いや、何でライバルの俺にそんな…」


「もうライバルじゃないよ?君は僕の下僕だよ?」

 とひらりと契約書を見せつけた。ううっ!こ、この腹黒ゲス野郎おおお!!


「どんなバイトだよ…」


「別に…。君…酒呑童子のこと知ってるよね?」


「当たり前だ…!有名な最強の鬼だし、御先祖様と友達の鬼で今は知らないが人間と共に子孫を残しているはずだが…」


「それ探すの手伝ってよ。月10万だすから」

 じゅっ…


「探します!探させていただきます!」

 ビシっと俺は敬礼した!!即答した。だって10万だ!!


「金に目が眩みまし種」

 イドミが言うが俺はもうプライドも恥も捨てた!御先祖様!ごめんなさいいいいいい!!

 俺…お金欲しいんですうううう!!


「よろしくね、ミッキーくん」


「はい!!優平様!!」

 とイドミと土倉家を出た後。


「ふはははは!見たかイドミ!俺のこの演技力!!」


「えっ!?演技力って、あれマジものじゃなく天狗?」


「当たり前だ!奴と俺は宿命のライバルだ!!今度こそ絶対あいつには負けん!!…金を稼いだらぶっ飛ばしてやる!!はーっはっはっはっはっはっ!」

 と笑う。イドミもクスリと笑い今日の建設現場で貰った日給を渡した。

 2万円か…。


 俺は少しだけ照れて言った。


「イドミ…き、今日は外食をしよう…」


「驚きマンモスーーーー!!」


「たまにはいいだろ!もう半額弁当に飽きた!!」

 と悔しそうに言うとイドミは笑い飛びついた!!


「だ、だからっ!俺は鬼には惑わされな…んっ」

 惑わされないからっ!とイドミとキスしながら俺は思った。


 イドミは遠い昔に堂満様が井戸に封じた使役鬼でそれから草ボーボーで放置されていたのを俺は文献で読んで発見し、何かの役に立つかと封印を解いた。そしたらデッケー胸の女の鬼が飛び出してきて


「ご主人様!!長い!!やっと出してくれた!!」

 と飛びついたのだった。妹と引き離されて1人で頑張ってたが、俺とイドミはその日からずっと一緒にいることになった…。


 俺は潰れた実家とも言える小さな開業医療施設を最後に見て廻ると白衣が落ちていた。借金残して逃げた親父のものだ。

 俺の夢はここを継ぐことだったのに…。ほんとは陰陽師とか鬼退治とか子供の頃から見かけたら少しやってたけどどうでも良かったりする時期もあった。投げ捨てようとしたけどイドミがいらないなら私が着ると言い、そのままイドミは白衣を羽織り続けた。


 まるで希望を捨てるな…という風に…。後、当時あんまり笑わなかった俺に笑いを与えようと変なダジャレを語尾に使い出した。俺は自身を取り戻し、頑張ろうと思った。御先祖様のこともイドミから聞いて立派な陰陽師だと言ってた。だから俺も恥じないよう頑張った。


 イドミは堂満様が寝とった聡明の嫁も今の世に転生し、生きている気配がすると言った。聡明の嫁という奴も変わった奴で確か平安時代の名前は輪花とか言ったか?

 そいつは人のくせに鬼や幽霊が見えるたまに霊力が強い巫女の家系の生まれだと聞いている。

 そいつが生まれ変わって現代に…。


 あの美しい鬼嫁…。鈴と輪花の生まれ変わりが出会ったらどうなるんだろうな…とちょっと思った。

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