第17話 鈴のヤキモチとお弁当
鈴さんは離れで父と母に挨拶をして、また僕と本邸に戻ったが、戻る途中もツーンとしていて離れて歩いた。
これは…もしかしなくても機嫌が悪い。
原因はあれだろう。行く前に茉理姉さんがからかって僕の耳を齧ったりしたことだ。
「鈴さん…お、おお怒ってるの??」
「…………」
沈黙が長い!!やはり怒っている!!
「あの、茉理姉さんは昔から僕のことからかうのが好きなんだよ…」
「……私…優平くんの小さい頃なんて知りませんから!」
と言うので
「あ、アルバムがあるけどみみ見る?」
と言うと鈴さんはピクリとした。ドラマを見て学習し、アルバムのことも何となく知っているのである。
「…………どうせあの茉理さんと仲良しの写真があるんですよね?嫌です!見たくないです!」
とツーンとしてしまった。
ううん、どうしたら機嫌を直してくれるんだろ?そんなこと言ったら僕も小さい頃の鈴さんが見たかった。無理だけど!平安時代だもんね!!
しかし茉理姉さんもからかい過ぎだよ。鈴さんをババアとか言ってたし。あれは流石に怒るだろう。1200年封印され眠らされていたんだから歳は16のままだと思うけど。文献にも16の鬼娘と記されていたし、昔の人の寿命はかなり短かったようだ。男性33歳、女性27歳って若すぎる!
聡明様が封印をした訳もなんとなくこの辺にもある気がする。平安時代からしたらもう聡明様はおっさんというかジジイ感覚だから若い子を嫁に取る愚かなことはしなかったんだろうな。だから生まれ変わりの僕に託すとかやっぱり変態過ぎて嫌だけど。鈴さんはやはりどうしても好きだ。
聡明様の生まれ変わりで鈴さんがこんなに好きなのかはもう判らない。僕は僕で聡明様の記憶はないが力があることは確か。変態なのも…。
でも純粋に鈴さんに嫌われるとなると辛すぎるから早めに仲直りがしたい。しかしどうすれば…。
考えてると本邸に着いてしまい、夕食も別々に取ってしまった。あああ、世の恋人は喧嘩したらどう仲直りすんだろ?
それからなんと1週間くらい鈴さんは口を聞かなかった。
*
優平くんと夫婦喧嘩みたいなのした。
だって目の前でおそらく浮気現場を見てしまったのだ!
民代さんに言いながら私は浮気されたと泣いた。きっとこのまま私は奥様ワイドショーみたいに旦那に浮気され、違う男の人と不倫してしまう……と泣くと
「だからそれはドラマです!大体鈴様には不倫相手なんていませんよ!?」
「あっ…本当でした」
でも…どうしたらこのやり場のない気持ちが消化できるのだろうか?
「まぁ、優平様も鈴様の目の前で従姉弟と言えど他の女とイチャついた隙を作ったのですから鈴様は悪くありませんよ?しばらくは優平様と口を聞かなくてもいいでしょう。1週間くらいは」
「そ、そんなに?」
民代さんは
「いい薬ですよ。優平様が誠実かどうか見るチャンスですしね、1週間鈴様と口を聞かない間、茉理様とお話するようではダメですね。まぁ、もしもそんなことがあれば離婚ですかねぇ?」
と言われて青くなる。
「り、離婚!!」
ガーンと私はショックを受ける。
「まぁ、もし何もなかったら鈴様もお詫びしなければなりませんからこの1週間の間昼間はお弁当作りを練習してみませんか?」
「えっ!?お弁当!!?あのドラマでも出て来るやつ?」
「そうです。現代のお弁当ですよ。よく青春ドラマでも好きな人にお弁当作りは定番ですからね?鈴様はお料理したことは?」
「あ、あります!!もちろん!でも…私達の時代だから…ほとんど雑炊とか粥とか煮たものが多くて。後は魚を焼いたり。お野菜を切ったお汁とか。ご飯は白飯は貴族しか食べれなくてひえや粟とかでしたけど」
「まぁまぁ…そうでしたね。でもお弁当は基本おにぎりや唐揚げ、ウインナー、卵、ミートボールにプチトマト、ポテトサラダにミニスパゲティ、ハンバーグなどなどいろいろありますがあまり茶色くならないよう色とりどりで可愛らしくを目指しましょう!」
「あっ、私見た!お弁当箱開けたらよくスキとか書いてるの!」
「それです!鈴様!頑張りましょう!」
「はっはい!!民代さんご指導よろしくお願いします!」
と頭を下げた。
*
僕はこのまま鈴さんと話せなくなるのは嫌だった。彼女は柱の陰からジロリと見ている。不味い!何回か謝ったけどまだ、だめか?
僕は式神を出してもう一人の自分に言い聞かせた。
「これから離れに行って茉理姉さんに手紙を渡してきてほしい…もし茉理姉さんが僕に手を出そうとして身体のどこかにちょっとでも触れたら紙に戻るんだ」
と言うと式神はコクリとうなづき手紙を持ち出て行った。
*
私は野菜を切るのは上手だと褒められた。
そしてついにフライパンというのに油を注いで卵焼きを作ることにした。
一回民代さんがお手本を見せてくれた。綺麗にくるくると巻いて凄いと思った。
「出来るかなぁ?油って跳ねるのですよね?」
「大丈夫です。最初は弱火で」
私はそろりと溶かした卵を四角いフライパン…卵用にジュッと入れていく。初めての感覚だ。これが油を使うってことかとビクビクしながらもあっ!巻かなきゃ!とくるくると巻き始め、焦がさないようにできた。
「……で、できた?でも…民代さんみたいにうまくない…」
「鈴様…。初めてにしては上出来ですよ!焦げてもないし!練習したらすぐ上手くなりますよ!才能ありです!」
私は嬉しくなった。すると窓の外に優平くんが見えた。あっちは離れの方!?
「あらあら?浮気しに行くのかしら?」
と民代さんも乗り出し
「付けましょう」
とスマホまで持ち出して証拠を取ろうとしている。
そんな…。優平くん…信じてたのに?嘘…。
後を付けていくと離れの呼び鈴を押すと茉理さんが頰を染め出てきた。優平くんは何か手紙を渡していた。
「何?ラブレターー??やだー!優平坊ちゃんたらっ♡」
と一人で興奮する茉理さんは辛抱たまらなかったのかいきなり優平くんに抱きついた!!
「あっ!浮気した!!」
と私が思わず言うと優平くんはボンっと煙になりヒラリと紙の人形になった。
そして茉理さんはそれをみてギリギリと歯を噛み締めた。
「あらあらセーフですね。式神を使うとはやりますね。優平様も」
「浮気じゃなかった…」
優平くん!良かった!信じてた!
という顔をしてるとクスクスと民代さんが
「さっきは泣きそうだったのに途端に嬉しい顔になりましたね。角がでてますよ。鈴様」
と笑う。
「えへへ…民代さん。お弁当作りに戻りましょう?」
でもなんの手紙を渡したのか少し気になったので見てみると茉理さんは手紙を読んでブルブル震えた。
「なっ!ななーなんなのよ!この解雇通知って!!ラブレターじゃなかったの!?」
とビリビリと手紙を破いていた。
「あらあら、クビになったみたいですね。ご当主様が自らクビと言ったからにはもう茉理様は分家に戻るしかありませんねぇ…。うふふふ、良かったですねぇ鈴様!」
私はとっても嬉しくなった。
「民代さん!私!優平くんのとこに…」
「それはまだです!お弁当ちゃんとマスターしちゃいましょう!」
「………はい!」
会ってすぐに許してはダメだと言われたから1週間は優平くんを睨みつけつつもお弁当を私は練習した。フライパンも上手く使えるようになった!!
そして一週間後に痺れを切らした優平くんにとうとう私は捕まった。寝る前に話があると言われてつい部屋にはいる。
優平くんは土下座して
「本当にごめん!!許してください!!鈴さんと話せないのは辛いよ!!」
と頭をつけたまま謝る。よく考えれば優平くんは悪くないのかもしれない。あの茉理さんが一方的に迫っていたし。
「もう茉理姉さんをクビにしたから離れにはいないよ!!別の年配の人に来てもらうことにした!誓って僕は鈴さん一筋だよ!」
と言う優平くん。
「ゆ、許してくれない?」
「判りました。でもただでは駄目です!私も消毒します!」
と言うと優平くんは
「えっ?」
と言って身体を起こしたからさっと近寄り優平くんの耳たぶをペロリと舐めた。
「ふああっ!!」
と優平くんは真っ赤になる。ついでに反対側も舐めて綺麗にする。昔は消毒液なんかないから怪我したりしたら舐めてたりした。唾液には抗菌作用があるとこの前テレビでも行ってたから私の時代でも間違いじゃなかったんだ。
「す、鈴さんそっちは齧られてないよ…っっ!」
「ごめんなさい…片耳だけ綺麗にしてももう片方もついでにと思って。抗菌作用です」
と言っておくけど優平くんは相変わらず赤いままだ。
「それじゃお休みなさい…優平くん、明日も学校でしょう?」
と言うと赤くなりながら腕を掴まれて
「ううっ…鈴さん…ず、ずるい…」
と抱き寄せられキスされた。
すぐに離れたけど顔を赤くして
「お休み…」
と背中を押されて追い出された。
久しぶりに胸がドキドキしてきて眠れなくなりそう。明日は早く起きなきゃ…。
*
朝になり学校の支度をして朝食を久しぶりに鈴さんと取った。彼女の機嫌は直っていて美しい微笑みを僕に向けた。ああっ!神さまありがとうございます!!この笑顔が見れるなら僕はなんでもしましょう!!
と、いつものように玄関で靴を履いていると鈴さんは
「優平くん!これ!」
となんとお弁当を渡した!!
「あっ、民代さんが作ったやつ?」
「違うよ!!私が作ったんです!!」
というから驚いた!!
なっ!何だと!?いつの間に料理なんか!?
というか!!鈴さんの手作り弁当だとー!?
脳内に薔薇が咲いた!!
「優平様、ちゃんと残さず食べてあげなさいね?鈴様…頑張ったんですよ?」
「あああ!当たり前でしょう?ありがとう鈴さん!!ありがとう!ありがとう!」
と言いつつ、名残惜しく学校に向かい、きちんとお弁当はロッカーにしまい込み、お昼はまだかとソワソワしながら授業を受けて、お昼のチャイムと同時にダッシュしてロッカーからお弁当を出して、なんだあいつ?とか他の生徒にも見られつつ僕は人のいない旧校舎屋上へ向かい弁当をドキドキしながら開けたら…
真っ白なご飯にピンク色のふりかけでハートと
【スキ】
の文字に恐ろしく可愛らしい色鮮やかなおかずが入っていた。
思わず泣きながらガッツポーズとったことは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます