第10話
やはり神社の場所には秋葉城があり、地区会館のあたりが東丸があった場所でした。
そして、そこにはこう書いてありました。
【 秋葉城炎上の日、農民たちが巫女の衣裳を届けるために秋葉城へやって来ました。城主の娘が舞い捧げる豊穣祭事の衣裳です。
この約束を知らされていなかった城主は驚き、自分に言わずにそのようなことを決めた姫に立腹しました。
そして農民たちを追い返すと、姫を呼びつけきつい言葉を投げつけ、そしてその夜、城は炎に包まれたのです。
おそらくは約束を反故にされた農民たちが城主に対する積年の恨みもあって城に火を放ったのでしょう。
強い南風にあおられ、火はあっという間に城を包み込みました。
これは農民の思いを拒み続けた愚かな城主と、災害による空腹に耐えかねた民が引き起こした悲劇と言わざるを得ません。
神崎家は反乱を鎮められなかったとして、お家は取りつぶし、反乱した農民たちは田畑を取り上げられ死罪になったと伝えられていますが、いまや当時を知る人はおらず、想像での口伝えのみでのことで、真実はわかりません 】
七緒が言いました。
『この書物によるとこれを書いたのは土御門(つちみかど)の末裔のようじゃ。土御門家は幕府お抱えの陰陽師でのう、秋葉の城にも土御門禎俊(つちみかどさだとし)という陰陽師がおったな。それなりに信憑性は高いと言えよう』
『神社の昔の神主さんだよね』
『今更ながらに父上の狭量には残念でならぬ。民をまず考えればこのようなことにはならなかった。私が舞えば民の気持ちも収まり、平穏が取り戻されたやも知れぬものを』
『そうかもしれないけど……』
『民たちもなぜ我慢できなかったのか。苦しみはわかる。じゃが、腹いせに城に火を放ってその腹が膨れるわけもない。愚かな下策ではないか』
『な、七緒、痛いよ』
七緒の心が怒りに震えると小春の胸が締め付けられました。
小春を立っていられないほどの痛みが襲います。
『吾は意固地な父と浅はかな民に殺されたと申すか!』
『い、痛い! 痛いって! 七緒!』
小春はうずくまってしまいました。
『すまぬ。しかし吾がこのようなつまらぬことで死なねばならなかったとは……無念じゃ』
『七緒、些細なんかじゃないよ。お百姓さんもお父さんも色々と考えてのことかもしれないし。だって、ここ見て』
小春は開いた本の一部分を指して、自分で覗き込みます。
『ほらここだよ。想像での口伝えのみでのことで、真実はわかりませんって書いてある。神主さんが想像しただけっぽいよ? これ』
『じゃが、それ以外に最早知るすべがない。土御門は優秀な陰陽師。作り話を広めるような男ではあるまい』
『神社の人に聞いてみようよ、神主さんなら何か知ってるかもしれないよ?』
『時間の無駄じゃが、他に頼るすべもない。好きにするがよい』
七緒は静かになり、怒りを通り越し落ち込んでいるようでした。
神社に戻った小春は宮司の倉橋八洲雄(くらはしやすお)に話を聞きます。
「という訳で、夏休みの自由研究でいろいろと調べていまして」
中学生ならではの宿題のためという免罪符を使います。
「大変良い心がけです。神社にも先ほどおっしゃった書物はございますので、大方のことは私も存じております。ただ、私の知識もそこまでで、目新しいことはなにもございません」
「そこを何とか! なんでもいいんです。なにか手掛かりがあれば良いレポートが書けるのになぁ……」
小春の熱意に気圧された宮司が口を開きました。
「実は……これは公開していないことなのですが」
思わぬ展開に固唾を飲む小春と七緒。
「この神社には建立以来ずっと奥にしまわれた開かずの巻物が存在します。土御門禎俊という城お抱えの陰陽師で先々代の祖先だと聞いておりますが、その禎俊が書き記した巻物です」
七緒の声が小春の頭に響きます。
『土御門禎俊! やはりあの者か。何が書いてあるのじゃ! 早う持って参れ』
宮司にその声が聞こえるはずもなく、彼は小春の顔を見て続けます。
「その巻物は『姫さまへ』となっているのですよ」
七緒が大きな声をあげました。
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