第1章:砂漠の国 第2話:依頼と再会(前) 

~翌日~


昨日は少し依頼をやりすぎた。

でもその甲斐あって、生活費にプラスして砂漠の歴史書を

購入することが出来たんだけど。

はぁ。これだけ魔導が発展していると言うのに。紙を使う物だけは未だに高い。

ああ、ここは砂漠で紙は輸入する他ないって立地的な問題もあるのか。

それはさて措き、この辺は貴族や豪商、

有名な建築家や芸術家が住んでる場所だな。

まあ、高難度の依頼を出せるくらいなんだから金持ちなのは納得だけど。

・・・もし依頼主が貴族なら、この依頼を受けるかどうかを

考え直さないといけないなぁ。

というのも。サビエラとイキース(私の祖国)は『魔導振興条約』を結んでいる。

所謂、友好国同士と言うヤツで、貴族同士の交流も盛んに行われている。

つまりはだ。私の顔見知りがいる可能性がある。

だが。大丈夫そうだ。今、依頼人の住んでる場所着いたけど、

見た目からして建築家の家だ。

近くに顔を知られてる貴族の邸宅もないし、安心!は出来ないけど、

依頼を受けることは出来そうだ。

それにしても・・・門番。庭師。執事。メイド。

豪邸になら絶対にいるはずの人がいない。

それどころか、門に鍵すら掛かってない。

いや。よくよく見てみると植物が生い茂っていたり、壁にヒビが入っていたり。

建築家の家にしては、明らかに不自然な点が多い。

依頼人は、本当に建築家なのだろうか?

でもなぁ。依頼内容は建築関係だし、この家は貴族が住む様な邸宅じゃない。


「あの、俺ん家に何か用ッスカ?」


家?の前でボーっと立っていると急に後方から声が聞えた。

咄嗟に振り返ると、汗と泥にまみれた青年が立っていた。

仕事帰り?と言った感じか。

この邸宅が並ぶ場所に似つかわしくない作業着を着ている。

まさか、と思いつつ私は「君、この家の子?」と家を指差す。

すると彼は「ああ。俺ん家ですけど、なにか?」と首を傾げる。

色々思う所はあるけど、一旦依頼を受けて来たことを伝えよう。


「依頼を受けた来たんだけど。君のお父様とかが出したのかな?」


私の言葉に、彼は一瞬ムッとした表情を見せ「いいや。俺が依頼を出したッス」と

ぶっきら棒に言う。

私は咄嗟に「いや。申し訳なかった」と謝罪したが、

彼の機嫌が直ることはなかった。

気まずい空気が一瞬流れた後、彼は「まいいッス。とりあえず中に入って下さい」と正面の門を開ける。

いや。開けようとした瞬間に、門は根本からポッキリと折れてしまった。

ガシャンという轟音が響いた後に、錆と砂が入り混じった粉塵が舞う。

幸い、私達に怪我はなかったが。

彼は悔しそうに唇を嚙みながら家の中に入っていってしまった。

う~ん。見た感じ。魔導風化防止陣はしっかりと施されてるんだけどな。

魔導風化防止陣の有効期限がだいたい30年。

そこから徐々に風化していくとして・・・。

40~50年はしっかりと手入れされていないことになるな。

でも、この砂漠で4、50年も放置してこの程度しか浸食されてないとなると。

元々、この家を設計した建築家は優秀だったはずだが。

はぁ。まあなんにせよ、私にはこの家の事情は関係ない。

と言うか、あまり人様の家庭の事情に首を突っ込むべきではない。

私はそのまま、彼の後を追うように歩き始めた。

家の中に入ると、更に色々と感心させられた。

この家の構造は、魔導建築の集大成と言っても過言じゃないかもしれない。

だから。ますます気になる。

どうしてこんなに素晴らしい建築物が廃れてしまったのか。


「凄いッスよね。これ、俺の親父が建てたんスよ」


家の中を見回していると、今度は生き生きとした彼の声が聞こえてきた。

なるほど、彼は心の底から父親を尊敬しているんだろう。・・・私とは正反対だな。

でも、だとしたら尚更不自然だ。素晴らしい建築家の父を尊敬している彼が、

家をこんなに廃れさせるものだろうか?何か事情があるんだろうけど・・・。

いや、この段階で深入りしすぎるのは良くないな。今は依頼に集中しよう。


「えっと。それで依頼の詳しい内容を聞かせてもらえますか?」


私の言葉を聞いた彼は、困った様な悔やんでいる様な、よく分からない表情した。

そして

「途中で、依頼を受けるのをやめたいと思ったら。そのまま出て行ってください」

と静かな声で言い、彼はゆっくりと話を始めた。簡単に要約すると・・・。

約10年前のサビエラには、エルナナ=カルララ・ポエーンと言う建築家がいた。

世界的に名の知れた建築家で、

サビエラの建築物の3割は彼が手掛けたものだという。

そんな彼は晩年、防砂壁の修復に奔走していた。

が、ある日突然。謎の急死を遂げる。

結果、進行途中の防砂壁修復計画は彼の弟である

ベルラザードが引き継ぐことになった。


「世間的には、そう言うことになっていますが・・・。

実際は、叔父が父を殺したんだと思います」


彼は拳に力を入れ、唇を強く噛む。結果として、両方から血が滲み出てくる。

・・・依頼の条件に書いてあったことと、彼の話しから考えると。

恐らく、父親の成し遂げられなかったことを、

仇である叔父より早く成し遂げるつもりだな。

だが。防砂壁の修復は青年一人と、旅人一人じゃ絶対に無理だぞ。

もし若さゆえの無謀な行動なのだとしたら、私が止めに入るべきか?

いやいや、そもそも彼の叔父が父を殺したと言う証拠はない。

青年の被害妄想と言う可能性もある。

まあ、現状ではどちらが正しいかは分からないが。

でも、彼が父の意志を継ごうと頑張っていることは事実。

私も防砂壁には興味がある。この依頼、私の気持ち的には受けても問題ないな。


「事情は分かったよ。殺人とかの犯罪に関わる依頼だったら受けなかったけど。

叔父さんと正々堂々と戦おうとしているなら、男として力を貸してあげるよ」


私の言葉を聞いた彼は、少し意外そうな顔をした後

「えっと。ありがとうございます」と言ってくれた。

その後、今後のことや自己紹介などを軽く済ませて解散した。

本格的に動き出すのは明日からだ。

何やら、行きたい場所があるから準備をしてきて欲しいとのことだ。

いや~。思ったよりも面白そうな依頼を受けられてよかった。

と思いながら道を歩いていると、貴族の邸宅の前で、上質なバトラーを身に纏った初老の男と、メイド服を着た身長2m越えの女性の姿が目に入った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

あれ?あれ?あれ?・・・あれは!爺とクレイシア!?

やばい!早く逃げないとまずいことになる。

と思って、走って逃げようとした瞬間、

後方から聞き覚えのある声が聞こえて来た(汗)。


「カルムス様。爺を置いてどこへ行かれるのですか?」


その声を聞いた瞬間、私は急いで逃げようとした。

んだけど、いつの間にか前方をクレイシアに防がれていた。

ああ。終わった(涙)。・・・いや、まだ逃げ出せるチャンスはあるはずだ。

そうだ!東方の国に行った時に買った『煙幕』を使ってみよう。

私は急いで腰に提げている魔導袋に手をやろうとした。が、そこには何もなかった。

それどころか、剣とか、なんか、色々と取り上げられてる。


「カルムス様がまだ乳飲み子だった頃から仕えさせて頂いている身です。

貴方様の考えることなど、手に取るように分かります」


・・・はぁ。これだから嫌だったんだよ。爺は全てを見透かしてくる。

家を飛び出してから約6年。何時かは見つかると思ってたけど。

このタイミングでかぁ。しかも、爺だけじゃなくクレイシアにも見つかるなんて。

ああ。本当に最悪だ。

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