第40話:隠された痛み
「美月」
突然の声に、私は驚いて振り向いた。
「あ、お兄ちゃん」
振り向くと、ドアの前にお兄ちゃんが立っていた。
お兄ちゃんの姿を見て、私は少し安心した。
「…ちょっと今いい?」
お兄ちゃんの真剣な表情に、私は少し戸惑った。
できることなら私も…ここから逃げ出したかった。
「ごめん。今はちょっと…」
私は言葉を濁した。
「すみません。美月と大事な話があるので連れていきますね」
お兄ちゃんは私の言葉を無視して、クラスメイトにそう言った。
「え、お兄ちゃん」
私は驚きと困惑で声を上げた。
私の意見を無視したことなんて、今まで一度も…。
「行くよ」
そういうとお兄ちゃんは私をお姫様抱っこした。
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん」
私は恥ずかしさと驚きで顔が赤くなった。
「自分で歩けるよ」
私は抵抗したけど、お兄ちゃんは聞き入れなかった。
「それでも痛いんでしょ」
お兄ちゃんの言葉に、私は黙るしかなかった。
「お兄ちゃんってば、」
私は小さな声で呟いた。
「危ないからじっとしてて」
お兄ちゃんは優しく言った。
そのまま私をお姫様抱っこし、空き教室に入ると椅子に優しく私を降ろした。
お兄ちゃんはゆっくりとしゃがみ、優しく足を触った。
その手の温もりが心に染み渡る。
お兄ちゃんの手の温かさが伝わり、私は少しだけ心が落ち着いた。
「やっぱり、腫れてる」
お兄ちゃんの声は低く、優しさと心配が混じっていた。表情からは、私の痛みを自分のもののように感じていることが伝わってきた。
その瞬間、痛みが走り、心臓がドキッとした。
「いっ…」
私は思わず声を上げた。
お兄ちゃんの手の温もりが一瞬で消え、冷たい現実が戻ってきた。
「あ、ごめんね。大丈夫?痛かったよね、」
お兄ちゃんはすぐに手を引っ込め、心配そうに私を見つめた。
「大丈夫」
「湿布は貼られてるけど、保健室には行ったんだよね?」
お兄ちゃんの声は優しく、だけど心配が滲み出ていた。
お兄ちゃんの眉は深く寄せられ、瞳には不安が浮かんでいた。
「遥希くんが連れていってくれた」
「先生はなんて?」
「折れてはないから、しばらくしたら治るって」
「良かった」
お兄ちゃんは安心したように微笑み、私の手を優しく握った。
「心配かけてごめんね」
「美月が無事で本当に良かったよ」
その瞳には、深い安堵と愛情が溢れていた。
「ちょっと待って、足…怪我したこと気づいてたの?」
クラスメイトでさえ気づかなかったのに。
観客席にいたお兄ちゃんがどうして。
「もちろん」
お兄ちゃんは微笑んだ。
「どうして、」
私はさらに尋ねた。
「分かるよ」
お兄ちゃんの言葉に、私は少し安心した。
それ以上私は聞かなかった。
「大変だったね」
お兄ちゃんの優しい言葉に、私は涙が出そうになった。
「…事故だから。しょうがないよ、」
私は涙をこらえながら答えた。
「事故…じゃないでしょ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます