戦国姫の巫
夜桜海月
第1話
ー時は戦国ー
各国が領土や富を得り、自国の領土と領民を守るために戦を繰り返していた。
しかし、他国は和華国と戦をしなかったので、和華国は自国の防衛と発展のために力を使った。
なぜなら、和華国には龍が住んでいる世ー天界ーと人間が住む現世を繋ぐ橋があり、他国は恐れたからー。
「今日は、今年初めての雪が降ったね」
花々が咲き誇る青空のしたで少年は日の光がまぶしいのか目を細めて笑顔で言った。
「そうなんですか。昨日は、一日中部屋にいたので分かりませんでした。雪が降るといっそう寒く感じますね」
寝間着を着た少女は微笑みながら応えた。
「姫、僕がいつか見せてあげるよ、美しい銀世界を」
「本当ですか、
少女がそういった時、花が散っていき二人に夢の世界の終わりを告げる。
「また、今日の夜に会おうね」
「そうですね。また、明日」
目を開くと朝の陽光で目が眩んだ。
朱菜の侍女頭兼相談相手の
「おはようございます。体調は大丈夫ですか、珠菜姫様。昨日の夜中初雪が降って、外は銀世界ですよ」
「おはよう。身支度をしたいから外に行ってくれる?」
「承知しました。体調が悪くなったら、すぐにお知らせ下さい」
「分かってるわ」
どのくらいかというとー日の光の下にいると貧血をおこすわ、気を抜くと気絶するわ、三日に一度は熱が出るわーという具合で朱菜にとって身体のどこかしらが悪いことは普通であり、むしろ身体が快調な日は奇跡である。
そのため珠菜の両親や侍女は心配性かつ世話好きとなり、常に珠菜の周りには誰かしらいて一人のときは身支度の時ぐらいしかなかった。
珠菜は一人鏡台に向かい合って自分の青白い顔を軽く白粉を塗って紅をさして血色の良い顔にした。
昔、みんなに心配をかけないようにするにはどうすれば良いか聞いたところ、瑚冬が化粧技術を教えてくれた。
この化粧のおかげで、珠菜はみんなに顔色を心配されることがなくなった。
化粧が終わったのと同時に襖の外から瑚冬の声が聞こえた。
「珠菜姫様、朝食の準備が整いましたので、いらっしゃってください。
「今から行くわ」
部屋を出て廊下をしばらく歩いていると食事をする間に着いた。
襖を両手でゆっくり開けて、お膳が置いてあるところに腰を下ろした。
「おはよう、珠菜。今日は雪が降っているから温かい恰好をしてね。真虎様、食べる前に話しますか」
「そうだな。当然だが珠菜には、嫁いで貰うことになってしまった」
菊が何かありそうな言い方だったので何かあるとは思っていたが、婚姻話とは。
珠菜も今年で十四となり、そろそろ家のために嫁ぐことは、分かっていたのであっさり承諾した。
「承知しました。しかし、私の体は病弱ですので子を授けるのは」
難しいと続けようとしたが、菊に遮られた。
「子を無理に作らなくていいのよ。あなたの身体は病弱だけどいつかきっと良くなるから、ね」
「菊の言う通り、大切なのは珠菜の体だからな。珠菜よ、そなたは巫として橋の向こうの世界の青龍の当主に嫁いで欲しいのだ」
ー
橋の向こうには、四色の龍と帝と呼ばれる神が治めて住んでいる世界がある。
四色の龍と帝はそれぞれ、帝が中央、青龍が東、白龍が西、赤龍が南、黒龍が北にいて、どの地域も平和である。
「そうそう、あと一月後だから、準備しておいてね」
「分かりました」
珠菜はそう返事をし、冷めた朝食を食べた。
その日の夜、珠菜はいつも通り寝間着を着て布団にいた。
いつも寝る前になるとふと思うことがある。
今日が最後の日で明日は黄泉の世界にいるんだと。
病の苦しみや恐怖から逃れるために感情を無くした。
珠菜がいなくなっても悲しまないよう素っ気なく対応し、心残りがないよう欲を無くした。
それでも、それでも、幼い頃から見る夢に出てくる少年のことが忘れられなかった。
最初のころは現実がつらすぎて夢という自分にとって都合が良すぎる世界を創造し逃避をしていると自嘲してしまった。
だけど、毎回のように同じ夢を見るだなんて何らかしら意味があると思って仕方がない。
それに、夢の中の少年は、優しくて温かい珠菜の世界で光り輝く月のような存在だった。
夢の中は苦しみや恐怖といった珠菜の嫌いな負の感情をなく温かい何かに包み込まれているような感じがあった。
それだけではなく、珠菜は発熱や悪寒、めまいや気絶しない健康な身体になっていたのだ。
しかし、夢の中が幸せだったその分朝起きて熱があったり寒かったりする病弱な身体に夢の中の健康な身体と比べてしまい、絶望してしまう。
珠菜は、考えながら微睡んだ目を閉じて夢の中へ一歩ずつ進んで行った。
「光希様、話したいことがあります」
「姫からなんて珍しいね。何かあった?」
心配そうな顔で光希が聞いてきた。
「その、来月橋の向こう側にいらっしゃる青龍様に嫁ぐことになりました」
「姫ももうそんな年になったんだね。初めて会った時は小さくて可愛かったな。まあ、今もだけど」
「か、からかわないでください」
「でも、そっか、姫が青龍に嫁ぐんだ……」
光希はなぜが嬉しそうに言った。
それから、他愛のない話が続いていった。
月日は流れ、珠菜の嫁ぐ日がやってきた。
「ほんとうに、ほんとうに綺麗です」
「ありがとう、瑚冬」
珠菜は瑚冬によって白無垢を着せられていた。
「やっぱり重いですよね。いつもの小袖を着た方が……」
「大丈夫よ。それに、白無垢を着るのは今日だけだし」
「珠菜様の体調が1番ですので、辛くなったらこの瑚冬に言ってください。珠菜様そろそろ時間ですので外に出ましょうか」
城の外に出ると、真虎と菊が待っていた。
「ほんとうに嫁ぐのか。もし、青龍様が怖かったら、いつでも帰って来てな。なんだったら今からでも良いぞ」
「真虎様たっら、もう。娘離れ出来てませんね。そんなことよりも似合っているわよ、珠菜」
「ありがとうございます。父上、母上」
正午を告げるお寺の鐘が鳴り、珠菜が出発する時間を告げた。
「もうそろそろ時間か。身体には気をつけてな」
「瑚冬、珠菜のことお願いね。青龍と幸せに暮らしてね」
「承知しました、菊の方様。この瑚冬の命を換えても珠菜様を守ります」
「では、行って参ります。父上も母上もお身体を大切にして下さい」
良い感じな雰囲気で珠菜は城を出発したのに真虎の
「珠菜、文を送ってな。絶対返すから」
という親馬鹿が発動し雰囲気が普段と同じになってしまった。
武家の姫なら籠で移動するが、珠菜達一行は歩いて橋まで向かって行った。
「我らの姫様が嫁ぐのか……」
領主の影響で和華国の民は珠菜のことを慕い誇りに思っていた。
「幸せになってほしいよね」
「いつもの小袖の姫様は可愛らしいが白無垢の姫様は美しいなぁ」
珠菜達一行は領民に囲まれながら、ゆっくり進んで行った。
「珠菜様、寒くないですか。雪が降っていますので足元に気を付けてください。いつもより重い着物を着ているゆえ」
「心配してくれてありがとう。こんなに寒いのに何故か身体が暖かいの」
「それって熱があるってことでは?」
「……。あ、ほら、瑚冬、橋が見えてきたわ」
「着いたら安静にしてくださいね。あれが繋ぐ橋ですね」
珠菜の目の前には向こう側が霧で見えない橋があった。
おそらくこの橋が神橋だろう。
神橋を渡ることで珠菜の夫となる人がいる天界に行くことが出来る。
「渡ろっか」
珠菜の言葉を合図に神橋を渡って行った。
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