第26話 過去内転移
〔面白い。「力」を感じる……お前の身体もいただこう〕
『フローラ』が両手を上げると石亀の身体が床から浮き上がり、大神の時と同様に天井に押しつけられた。『フローラ』が続けて指先を動かすと触手のような「蔓」がもがいている石亀の首に巻きつき、呻き声が私の耳に突き刺さった。
「――石さん、逃げてっ」
私は思わず石亀の真下に行くと、石亀に向かって伸びた「蔓」を掴んだ。
「えい……えいっ」
私が渾身の力で引きちぎろうとしても、緑の触手はたわむことすらなかった。
舌と眼球がせり出し、白くなってゆく石亀の顔を見て私が悲鳴を上げそうになった、その時だった。
「――うっ」
突然、背後で声がしたかと思うと、どさりと人が床に倒れ込む音が聞こえた。振り向いた私は目の前の光景を見て「まさか……石さんがやったの?」と呟いた。
ベッドの上で仰向けになっている『花菜』の首筋に、教授が落とした注射器が人が持っているかのように突き立っていたのだ。
――石さんは攻撃を受けて苦しんでいるふりをしながら、『フローラ』の宿主である『花菜』の首に念動力で注射器を突き立てたんだ。
「ぎいいっ」
注射器の中の薬液が動くと、『フローラ』がもがきながら小さな球へと変化していった。
――やった、勝ったわ!
緑の球になった『フローラ』がしゅるしゅると「宿主」のほうに戻り始めた、その直後だった。突然、横たわっていた『花菜』がむくりと上体を起こし、自分の首から注射器を払いのけるのが見えた。
「――まずい!」
ふいに現れた大きな影が、縛めが失われ落下する石亀を触手ごと見事に受け止めていた。
「コンゴ! 助かったわ」
私が仲間の無事にほっと安堵の息をつきかけた、その時だった。緑の球が『花菜』の中に引っ込む直前、別の「触手」が私の足首に巻きつき強く引いた。
「――痛っ!」
床の上に引き倒された私が痛みと屈辱で声を上げると、駆け寄ってきた狼犬――大神が足首に巻きついた「触手」に噛みつき格闘を始めた。
「ウルフ! 無理しないでっ」
私が叫んだ次の瞬間、世界がスイッチを切り換えたように消え、私、大神、金剛の三人は「仮の探偵事務所」である多草教授の「書庫」に舞い戻っていた。
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