第21話 時系列を遡って


「数か月前、私はある地表類を採取するため南米の小国へ向かっていました」


 多草教授はおそらくつい先ほどもしたであろう話を、私たちに向けて語り始めた。


「ところがチャーターした小型機が整備不良で、目的地まであと少しの所で我々はジャングルに緊急着陸したのです。その際、立木に翼がぶつかり、機内はかなりの衝撃に見舞われました。同乗していた娘が頭を打ち意識不明になったのはその時です」


 無念を噛みしめるように過去の出来事を振り返る教授に、私は思わず仕事を忘れ同情した。


「救助されるまでの四日間、私たちはジャングルで意識のない娘の看護をしながら過ごしていたのですが、救助隊が到着する前日にある異変が起きたのです」


「異変?」


「二、三時間ほど目を離した隙に、娘の首から下を地表類らしき生物が覆っていたのです」


「……生き物なんですか?それ」


「おそらくは。私たちは娘の身体を覆っている謎の苔類を必死で剥ぎ取ると、心肺が機能している事を確かめ救援が来るまで全員で娘を守りました。意識こそ戻らなかったものの命に別条のなかった娘は私が連れて帰り、完全看護に近い形で面倒を見ることになりました」


「その、苔みたいな物に覆われたことが『フローラ』の原因だったんですか?」


 私は言ってしまってからはっとした。『フローラ』の話は七年後、雛乃から聞いた話であり、現在の教授からすればなぜ知っているのか疑問に思うはずだからだ。


「なぜそれを……ああそうか。別の……七年後の誰かかから聞いたんですね。そうです。娘の体内に寄生していた生物――私は『サイコネフィス』と名付けました――が、しばらくすると保管庫で研究中の『緑衣の塔』とテレパシーで情報交換し始めたのです」


「嘘でしょ? 信じられないわ」


 私が正直な感想を口にすると、多草教授は「残念ですが本当なのです」と頭を振った。


「テレパシーを通じ膨大な情報を『緑衣の塔』から与えられた『サイコネフィス』は、娘の人格を学習して『もう一人の花菜』である『フローラ』へと進化しました。そして今度は娘の体外に伸び、宿主を支配しようとし始めたのです」


「支配されると、どうなるんですか?」


「人間を乗っ取った『サイコネフィス』は宿主の姿をコピーし、超能力を使い出すのです」


「超能力……」


「『サイコネフィス』の持つ超能力はテレパシー、念動力、変身能力などで、それらを使うために宿主から大量の生命エネルギーを吸い取るのです」


「なるほど、それを防げなければお嬢さんは助からない――そう考えたのですね?」


「そうです。私は『フローラ』の持つ超能力を封じ、元の無害な菌に戻すことができれば娘は助かるのではないかと、超能力の研究者たちと積極的に会うことを始めました」



「その結果、私たちにたどり着いたということですか?」


 私が半信半疑で尋ねると、多草教授は「そういうことです」と強く頷いた。

「娘の「コピー」と対決し、どうにかしておとなしくさせてもらおうと思ったのです」


 私は自分が超能力者を預かる身であるにも関わらず、即座に「絶対無理だわ」と思った。


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