第52話 とりあえずうまくいった~クリス視点~
「リリアナ、今日は怖い思いをさせてしまってごめんね。さあ、屋敷に戻ろう。僕が送っていくから」
あの後、貴族学院は大混乱に陥った。そりゃそうだ、あろう事か王太子の婚約者で公爵令嬢のリリアナを、陥れようとしたのだ。生徒たちの衝撃は大きく、取り乱すものも多くいた。
ただ、今回の件は貴族学院にはあらかじめ話をしてあったため、比較的先生たちの対応は速やかだった。本来貴族学院を巻き込むべきではなかったのだが、学院長先生が
“犯人たちが貴族学院を舞台に選んだのでしたら、私たちは受け入れます。本来なら事前に防いだ方がいいのでしょうが…彼らはきっと、今回未遂に終わっても、次また事件を起こすでしょう。ここでケリを付けましょう”
そう言ってくれたのだ。学院長先生がそう結論を出すまで、何度も何度も話し合った。なんとか2人に更生の道を、そう考えていた学院長先生も、彼らの様子を見てこれは無理だと諦めた様だ。
それならば、ここで終わらせたい、そう考えてくださったのだ。もちろん、父上やリリアナの父、カルソル公爵、カシス殿の父、クラシックレス公爵など、公爵以上の貴族には全て話をした。
当然カルソル公爵は大激怒、絶対にイザベルとマーデンを許さない、そう意気込んでいた。今日も別室で、父上と一緒に学院での断罪劇を見守っていた事だろう。
今回の事件は、貴族学院に通っている生徒たちによって、貴族たちに一気に広まる事は容易に予想できる。皆が見ている前で、あれだけの事件を起こした2人には、同情的な声が出る事もないだろう。
貴族世界では、貴族たちの意見を重視する傾向に多い。その為1度目の生の時は、既に嫌われていたリリアナは、貴族たちの強い要望が反映され、極刑に処された。今回もきっと、貴族たちからは2人を極刑に、という意見が多数出るはずだ。
まあ、当然と言えば当然だ。それだけの罪を、あいつらは犯したのだから。
そして今回の一番の被害者でもある、リリアナ。きっと心に大きな傷を負ってしまっただろう。結局僕は、リリアナを傷つける形になってしまった事を、不甲斐なく感じている。
それでも僕の手で、リリアナを守れたことは良かった。1度目の生の時の罪が、これで消えるとは思っていない。でも、今度こそ僕の手で、リリアナを幸せにしてみせる。
無意識にリリアナを強く抱きしめた。温かくて柔らかい…1度目の生の時、無残にも死なせてしまったリリアナ。今は僕の腕の中にいてくれる。それが嬉しくてたまらない。
ただ…
なぜだろう、僕の心にモヤモヤが残っているのは…僕は目的を達成したはずなのに…
「クリス様、今回の件、私を守って下さりありがとうございました。でもそのせいで、マーデン様を断罪する形になってしまって…あなた様にとって、マーデン様はかけがえのない大切な友人だったのでしょう?」
切なそうに僕を見つめるリリアナ。彼女はマーデンにあんな酷い事をされたのに、僕とマーデンの関係を心配してくれるのだな…どこまで優しい子なのだろう。一歩間違えれば、リリアナは無実の罪で殺されていたかもしれないのに…
実際1度目の生では、リリアナは無残にも殺された。マーデンはリリアナの命なんて、何とも思っていないような人間なのに。
「僕の事を心配しているのかい?ありがとう。マーデンは僕を裏切り、あろう事か君を間接的に殺そうとした人物だ。確かに僕は、マーデンの事を大切に思っていた。でも、そんな僕を裏切ったのは、マーデンだ。僕はマーデンを、許すつもりはない。友人だからこそ、きちんと罪を償ってほしいと思っているのだよ」
僕は何度も、マーデンが真実を話してくれるよう誘導した。でもマーデンは、最後まで罪を認めなかった。それが全てなのだ。マーデンは最後の最後まで、僕を裏切り続けた。だから僕は、マーデンを許すつもりはない。
「クリス様、その…どうしてイザベル様を…」
「リリアナ、お帰りなさい。クリス殿下、よく娘を私どもの元に帰してくださいました。主人から今日の件、聞いております。本当にありがとうございました。リリアナ、辛かったでしょう?さあ、今日はゆっくり休みなさい」
馬車が停まるや否や、夫人が馬車に乗り込んできたのだ。どうやら今日の計画を、事前に公爵から聞いていたようで、居てもたってもいられなかったのだろう。リリアナを抱きしめ、今にも泣きそうな顔をしている。
夫人にも随分と負担をかけてしまった様だ。
「夫人、今回の件はあなたにもいらぬ不安を与えてしまい、申し訳ございませんでした。無事彼らの断罪は終わりました。もうリリアナを陥れようとする者はいません。どうかご安心を」
「成功したのですね…でも、なぜリリアナが、そこまでされないといけなかったのでしょうか?リリアナは、人に恨まれるような子ではありませんわ」
「ええ、それは僕が一番理解している事です。主犯でもあるイザベル嬢は、どうやら次期王妃になりたかったようなのです。その為、既に僕の婚約者でもあるリリアナが邪魔だったのでしょう」
「そんな理由で、リリアナは…なんて事なの」
あり得ないと言った顔の夫人。そう、あり得ないことが今回起ったのだ。もう二度とこんな愚かな令嬢が現れない様に、見せしめの意味を込めて、今回は厳罰に処する必要があるのだ。
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