第40話 お前たちの勝手にはさせない~クリス視点~
「わざわざ公爵家まで送って下さり、ありがとうございました」
「そんな事は気にしなくてもいいよ。君は僕の大切な人だ。送るのは当然だ。それじゃあ、また明日」
「ええ、また明日」
笑顔で挨拶をするリリアナに手を振り、馬車に乗り込んだ。今日ついに、僕たちは貴族学院に入学した。そしてあの女、イザベルとも対面したのだ。あの女を見た瞬間、体中から込みあげる怒りを必死に抑えた。とにかくあの女を、リリアナに関わらせたくはない。
とはいえ、あの女が僕に絡んでくるのだ。1度目の生で、優しいリリアナはイザベルが恥をかかない様にと、色々と彼女に教えてあげていた事を、今度は僕が積極的にやった。
きっと今回の生でも、リリアナはイザベルに令嬢としての振る舞いを指摘すると思ったから、先に指摘したのだ。僕に指摘されたイザベルは、しおらしく謝っていた。
リリアナに指摘されたときは、わざとらしく泣きながら“私が至らないばかりに、申し訳ございません。どうかお許しを”と、大げさに謝っていた。そのせいで、なぜかリリアナが悪者みたいな空気になったのだ。
あの女は、とにかく周りを味方に付けるのが上手い。たとえこっちが正しい事を言っていても、その場の雰囲気を上手に使い、さも自分が可哀そうな人物だと印象付けるのだ。僕も1度目の生の時、まんまとその策略にハマってしまった。
でも、僕はもう絶対にその策略にはハマらない。もう二度と、リリアナにあんな地獄を味合わせたくはない。
きっとあの女は、すぐにでも動き出すだろう。
王宮に戻ると、すぐに執事を呼び出した。
「僕がお願いしたスパイは、既に配置につているのかい?」
「はい、既に1週間前から、彼らを見張っております」
「ありがとう、とにかく、証拠が全てだ。今日から僕も、スパイが送ってくれた映像を確認したい。すぐに準備をしてくれ」
「承知いたしました…ですが、お忙しい殿下自らご確認しなくても、私がある程度監視いたします」
「いいや、自分の目で確認したいんだ」
「承知いたしました。それでは、すぐに準備をいたします」
執事が準備してくれた映像を確認したが、さすがに今日の今日では2人とも大した動くはなかった様だ。そう、僕はイザベルとマーデンを見張らせることにしたのだ。彼らは必ず動きを見せるはず。事前に動きをキャッチしたいのだ。
親友に裏切られ、人間不信になっている僕は、執事ですら信じていいものかと迷ったが、彼は1度目の生の時、最後まで僕に寄り添ってくれた人物。僕の廃嫡に関しても、必死に説得してくれた人物だ。
彼ならきっと、僕を裏切る事はしないだろう。それに何よりも、僕には1度目の生の時の記憶がある。
僕はとにかく、あいつらを許すことが出来ない。本当はカーラ・ミューストも一緒に地獄に叩き落してやりたかったが、生憎リリアナと仲良くなってしまったあの女。
あの女も既に、イザベルを警戒している様だ。カーラ嬢にリリアナを守られるなんて、まっぴら御免だ。僕が絶対にリリアナを守る。
その為にも、いち早く情報をキャッチしないと。そして証拠を集めて、あいつらを地獄に叩き落してやる!
翌日から僕は、常にリリアナと一緒にいつつ、イザベルとマーデンを監視した。
「クリス、今日は久しぶりに、一緒に剣の稽古をしようぜ。たまにはいいだろう?毎日リリアナ嬢といなくても」
笑顔で話しかけてくるマーデン。きっと僕とリリアナを引き離したいのだろう。僕がずっと四六時中リリアナといると、リリアナがイザベルに酷い事をしたという証言が出来なくなる。
そう、既にこいつは、1度目の生の時と同じく、イザベルに夢中になっていたのだ。まさか入学して早々、イザベルと体の関係を持つだなんて…その事実を知った時、吐き気がした。
我が国では、非常に体裁を気にする。未婚の婚約者同士でもない男女が、あんなにあっさりと体の関係を持つだなんて。本当に気持ち悪い。
でも、ここは乗っておいてやろうか。
「分かったよ、それじゃあ、今日は久しぶりに剣の打ち合いをしよう。リリアナ、悪いが今日は、1人で帰ってくれるかい?」
「それでしたら、私と一緒にお茶をしましょう。毎日毎日、クリス殿下は金魚のフンの様にリリアナ様にベッタリですもの。せっかく毎日リリアナ様とお会いできるのに、全然2人で過ごせなくて、うずうずしておりましたの」
どこからともなく湧いてできたのは、カーラ嬢だ。くそ、この女と2人きりになんてしたくないが…致し方ない。何よりも、リリアナも嬉しそうな顔をしているし…
この日を境に、僕をやたらと誘う様になったマーデンによって、リリアナから離れる時間が増えた。
そして案の定、リリアナがイザベルを虐めているという噂が出始めたのだ。もちろん、僕がしっかり証拠を集めた。今すぐ噂を消したいが、だからと言って皆にあの女が自作自演をしているという映像を見せる訳にもいかないし…
ここはリリアナには悪いが、リリアナの悪い噂を聞いたという事で調査をした結果、イザベルの自作自演だったという設定で行こう。
そしてマーデンが僕を裏切ったという証拠も残さないと。
早速僕は、マーデンにリリアナがイザベルに虐められているという噂を聞いた事、その件に関して調べて欲しい旨を伝えた。
やはりマーデンの調査では、リリアナがイザベルを虐めているという報告書が上がって来たのだ。
やはりこいつは、今度の生でも僕を裏切ったのだな…
こうなったら反撃開始だ!
そう思っていたのに…
※次回、カーラ視点です。
よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。