第38話 あの女とご対面です

「ここが私たちのクラスの様ですね。リリアナ様と同じクラスで、嬉しいですわ。さあ、入りましょう」


 カーラに腕を引かれ、教室へと入っていく。既にたくさんのクラスメイト達が、教室でおしゃべりしていた。


 多分この中に、イザベルがいるはず。そう思って辺りを見渡したのだが、あら?イザベルがいないわ。同じクラスのはずなのだけれど…


 その時だった。


「皆様、おはようございます。今日からどうぞよろしくお願いいたします」


 可愛らしい声が、教室中に響き渡ったのだ。こんな可愛らしい声の主は、誰かしら?ゆっくり後ろを振り返ると、そこにいたのは…


 間違いない、イザベルだ。この子、こんな可愛らしい声をしていたの?それに桃色の髪に水色の瞳、今まで二次元でしか見たことがなかったけれど、三次元で見ると、可愛さが爆発している。


 これがヒロインの力なの?なんて可愛らしい子なの?この美しさなら、男はイチコロだろう。


 きっとクリス様も、今頃頬を赤らめて…はいなさそうだ。


 そういえば漫画でも、イザベルの美しさになびく素振りは見せていなかった。ただ、イザベルの言う事(マーデンの嘘)を信じて、婚約者でもあるリリアナを責め立ててはいたけれどね。とはいえ、きっと最後は、イザベルと結婚して幸せに暮らしたのだろう。


 そう考えると、やっぱり私はこのままクリス様の傍にいてもいいのか悩んでしまう。この人は、結局リリアナを見捨てた人なのだ。でも…


 それでも私は、この3年クリス様と過ごしたことで、彼を愛してしまったのだ。そう簡単に切り替えられるほど、私の心は単純じゃない。


 こんな事なら、最初から婚約をしない方向で進めればよかったわ。リリアナはクリス様を好きだった。だからリリアナの為にクリス様と結ばれた方がいいだなんて、安易な考えを持っていたばかりに、今私自身が苦しむことになるだなんて…


「リリアナ、どうしたのだい?悲しそうな顔をして。リリアナの席はこっちだよ。さあ、座って」


 私の様子に気が付いたクリス様が、席に連れて行ってくれ、座らせてくれた。今は優しいクリス様も、いずれ親友の嘘に騙され、私を悪者にするのだろう…そう思うと、胸がずきずき痛む。


「リリアナ様、顔色がよろしくありませんわ。もしかして体調がすぐれないのですか?これは大変、すぐに医務室に向かいましょう」


「カーラ嬢、勝手な事はしないでくれ。リリアナ、体調が悪かったのだね。気が付かなくてごめんね。すぐに医務室へ…」


「お2人ともお気遣いいただき、ありがとうございます。私は平気ですわ。そろそろ先生もいらっしゃるでしょうから、席に着きましょう」


「ですが…」


「ありがとう、カーラ。本当に私は大丈夫よ。どうか気にしないで」


「分かりましたわ…」


 まだ心配そうなカーラだが、席に着いた。そのタイミングで、先生がやって来たのだ。私ったらダメね、これからイザベルとの戦いが始まるというのに。弱気になってどうするの?


 このままだと、あの女にまた出し抜かれてしまうわ。そう、あの女に…


 チラリとイザベルの方を見ると、物凄い形相で睨んでいたのだが、目が合った瞬間、すぐに笑顔を向けたのだ。あの女、既に私を敵として認定したのだろう。今の形相を見て、確信した。


 そう、もう既に戦いの火ぶたは切って落とされたのだ。あの女はきっと、近いうちに私の評判を下げるため、色々と仕掛けてくるはずだ。私だって、あんな女には絶対負けるつもりはない。


 私自身の幸せの為にも、まずはあの女を叩き潰すことに専念しないと。


 そんな事を考えているうちに、先生の話がいつの間にか終わっていた。


「リリアナ、帰ろう。今日は疲れただろう?王宮で昼食を食べた後、2人でのんびり過ごそう」


「クリス様、お気持ちは嬉しいのですが、今日は公爵家で母が私の帰りを待っております。ですので、今日はこのまま屋敷に帰りますわ」


 家に帰って、もう一度ストーリーを思い出したいのだ。それになんだか今は、クリス様と一緒にいたくない。


「でも…」


「お初に目にかかります。あなた様がこの国の王太子殿下のクリス様ですね。イザベル・ルミリオンと申します。私、ずっと領地で生活をしていて、あまり王都の事は詳しくないのです。どうか色々と教えてくださいね」


 私達の間に入り込んできたのは、イザベルだ。さすがイザベル、早速クリス様に取り入ろうと話しかけてきたわね。相変わらず非常識極まりない。クリス様は王太子だ、通常殿下呼びをするのが普通。それなのに、クリス様と呼ぶだなんて…


 あまりにも非常識っぷりを心配したリリアナが、漫画ではその点を指摘するのだが…もちろん私は、そんな事はしない。この女に関わると、ろくなことがないのだ。


 現にリリアナが指摘した瞬間、大げさなくらい泣いて周りに同情を求めていたものね…


 すっとイザベルから離れようとした時だった。


「ルミリオン侯爵家の令嬢、イザベル嬢だね。確か体が弱く、空気の綺麗な領地でずっと生活をしていたと聞いた。ただ…いくら領地で生活をしていたからと言って、貴族としての最低限の知識は身に着けなかったのかい?僕はこれでも、王太子なのだが…」


 困った顔のクリス様。あら?漫画では一度もイザベルに指摘しなかったクリス様が、今指摘した?もしかして、私が指摘しなかったからかしら?


 ビックリしてクリス様の方を見た。

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