第11話 幸せだったはずなのに…~クリス視点~
「クリス殿下、勝手にカルソル公爵家に行ったそうですね。何をお考えになっているのですか?あなた様とリリアナ様は、まだ正式に婚約を結んでいないのですよ。それなのに、婚約者でもない令嬢の家に行くだなんて。その上、事前に許可を取っていなかったと聞きます。その様な無礼な事をなさるだなんて。大体あなた様は…」
「悪いがお説教なら後で聞くよ。今は、1人にしてくれるかい?」
「クリス殿下!話はまだ…」
怒り狂う執事を部屋から追い出した。そして、ソファに座った。
「リリアナ…僕の大切なリリアナ。あんなに素敵な令嬢を、僕は…」
昨日のお茶会で、リリアナとろくに話が出来なかった僕は、居てもたってもいられず、今日貴族の掟を破り、リリアナに会いに行った。
もしリリアナに拒まれたら…その事も覚悟していた。でも彼女は、僕を受け入れてくれたのだ。
今度こそ僕の手で、リリアナを幸せにしたい。もう二度と、リリアナを苦しませたくはない。もう二度と、あんな思いはしたくない。もう二度と、僕は過ちを繰り返さない。絶対に!
そんな思いで僕は、2度目の生を生きているのだ。そう、僕には1度目の生の時の記憶がある。あの頃の僕は、本当に愚かだった。そのせいで、大切なリリアナを殺してしまったのだから…
~1度目の生の時の記憶~
10歳で僕は、リリアナと婚約を結んだ。周りからは政略結婚と言われていたが、僕は密かにリリアナに恋心を抱いていた。リリアナは昔から、一歩引いた性格で、あえて僕のところに来たりしない。
彼女はいつも、テーブルでお菓子とお茶を楽しんでいるマイペースな子だった。初めて彼女に会った時も、皆がおしゃべりをしている中、1人イスに座り、優雅にお茶を楽しんでいたのだ。
その姿が逆に目立っていて、僕は彼女に興味を抱き、話しかけた。すると
「殿下もお茶をどうぞ。お茶会なのに、皆おしゃべりに夢中で、ちっともお茶を楽しまないのですよ。せっかく使用人たちが一生懸命準備してくださったのに。こんなに美味しいお茶とお菓子を楽しまないなんて、おかしいですわよね」
そう言って笑ったのだ。その笑顔が、とても可愛らしくて、僕の鼓動が一気に早くなるのを感じた。それと同時に、彼女は本来の目的を遂行するべく、こうやってお茶を楽しんでいた様だ。
準備してくれた使用人たちの事も考えられる、優しい子。それがリリアナだ。そんなリリアナに興味を持った僕は、頻繁に色々な催しを開催した。時には皆でピクニックにも行った。
令嬢たちが
“野蛮な動物がいる”だの、“虫が近くにいて気持ち悪い”だの騒いでいる中、リリアナは1人、嬉しそうに野山を見て回っていた。綺麗な花を見つけては微笑、小動物を見ては笑顔になる。しまいには怪我をしていた子ウサギを見つけ、手当てまでしていた。
そんなリリアナに、僕はどんどん惹かれていった。そして僕たちが10歳の時、僕の念願叶い、晴れて婚約者同士になったのだ。僕の婚約者になったリリアナは、毎日王宮に通い、厳しい王妃教育も文句ひとつ言わずにこなしていった。
リリアナは誰にでも優しく、王宮の使用人たちともすぐに仲良くなった。もちろん僕も、リリアナとの時間を大切にした。そう、僕にとってリリアナとの時間は、本当に楽しくて幸せな時間だった。
でも、その幸せは長くは続かなかったのだ。僕たちは13歳になると、2年間貴族学院という場所に通う。貴族学院は、貴族や王族は必ず通う様義務付けられている場所だ。
僕たちも当たり前の様に、貴族学院に入った。そこで出ったのが、侯爵令嬢のイザベルだった。桃色の髪に水色の瞳をした可愛らしい令嬢だ。彼女は体が弱く、ずっと領地で暮していたとの事。
人懐っこくて距離が近いイザベル。僕にもニコニコしながら話しかけてきたのだ。危なっかしくて、どこか目が離せないそんなイザベルに、僕もつい世話を焼いてしまった。
ただ、そんなイザベルを、リリアナは快く思っていなかった様で…
「イザベル様、婚約者のいらっしゃる殿方に、むやみやたらに触れるものではありませんわ」
そう言って、よく注意をしていた。ずっと領地で生活をしていたイザベルは、少し世間知らずなところがあるから、親切なリリアナが教えてあげているのだろう、そう僕は思っていた。
しかしある日、顔が真っ赤に腫れ上がったイザベルが、泣きながら僕の元にやって来たのだ。一体どうしたというのだろう。話を聞くと
「リリアナ様にやられましたの。私がクリス様と仲良くしていることが、気に入らない様で…“クリス様に二度と近づかないで。もしまた近づいたら、この程度では済ませないわよ”そう言われてしまって…」
そう言って泣き崩れてしまったのだ。あり得ない、リリアナがそんな酷い事をするだなんて。でも、実際イザベルの顔は腫れあがっている。
その後もイザベルは、リリアナから階段から突き落とされたと訴えたり、水を掛けられたと訴えたりしてきたのだ。さすがにこれは酷い、そう思い、僕は幼馴染でもある、侯爵令息のマーデンに調査を依頼した。
彼は非常に優秀で、将来僕の右腕として期待されている人物だ。マーデンには絶大な信頼を寄せているのだ。早速マーデンが調査を開始してくれた。
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