🎗️🎗️
友人でも恋人でもない。似ているけれど、だからこそ決定的にちがう、名状しがたい繋がり。もっと秘めやかで、かけがえのない関係性。その特別感に当時のあたしはとても固執していた気がする。どうしてかな。
特別な関係。少なくともあたしはそう信じていたし、異性にたいしてのみ向ける類の
一陣の乾っ風が吹き抜ける。ピアスのついてる耳が痛い。襟を掻き合せて、空を仰いでみる。かつてのかれがぼうっと見上げていたように。冬の空は濁った色をしていて、ぼやけた雲の輪郭と区別がつかない。
あの頃は気にも留めなかった。かれは何を見ていたんだろう。何が見えていたんだろう。
朝のホームルーム前の図書室、大人びた顔つきを縁取る優しい日ざし。昼休憩の階段下倉庫、ふしぎなお箸の持ち方。放課後の遠回りを極める帰り道、
あっという間に伸びてしまう影、バイバイを先回りして込み上げてくる切なさ、明日が待ち遠しくて堪らなかった。通い慣れた道のり――
とくに放課後は、いちばん時間を共有することが多かった。霜柱を踏み鳴らす
耳を澄まさなくても鼓動がきこえそうな距離にいながら、あたしはかれのこと、何も知らなかった。知らなくていいとさえ思っていた。かれと別れたあとの帰り道とか、お風呂に浸かっているひととき、夢に誘われるのを待つベッドのなかで、ぼんやり好き勝手に想像するのがすきだった。
名前のない秘密の関係。そもそも……あたしはまだ、のろのろ考えあぐねる――友人とか恋人の定義って、なんなの? かならずひとつではないはず。おんなじ感性できもちを重ねているようで、ひとの性格は余すところなくグラデーションになってるんだから。……うまく説明できないけれど。
ため息をひとつ、そっと溢す。何はともあれ、かれが同窓会を欠席してくれてよかった。あたしらの間に不協和音はながれてないけれど、果たしてどんな顔で再会しろというんだろう。
そのとき、足もとにからみつく気配がした。柔らかくて軽いもの。てっきり植物の蔦かと思ったら、正体は野良猫だった。全身に落ち葉をくっつけている。キジトラ柄とおそろいの色。こんなに寒いのに、こんなところでひとり、何をしているの?
フレアワンピースの裾に頭がかくれるほど近づくから、うっかり踏んでしまわないよう歩幅を狭めに心がける。
ごめんだけど、あたし、食べものとかもってないの。だけど市街地に行けば、あなたの気にいりの住処が見つかるかも。もしよかったら、付いておいで。
母校まで半分も達してないという段階で、踏切に差し掛かった。いかにも田舎らしい、風情ただよう踏切である。徒歩通学のかれとはここで別れるのがスタンダードだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます