第36話皇子誕生~弘徽殿側の余裕~
一方、
「二条邸は随分と賑やかでいらっしゃると聞きますわ」
「右大臣さまは大層お喜びだとか」
「では、やはり皇子の後見人を右大臣さまが?」
「それはそうでしょう。御生母の尚侍さまは右大臣さまの御養女。実の姪御にあたられる方ですもの」
「尚侍さまは愛らしくて。まるで少女のようでしたわ」
「ええ、初めて御尊顔を拝見しましたが、それは可愛らしい方で……。幼い頃に遊んだお人形を思いだしましたのよ」
「まあ!」
女房たちは、クスクスと笑いあう。
尚侍を褒めているかのようで実のところは貶していた。
当初は、「こんな子供が?」と思ったほどだ。
裳着を済んだばかりの少女と勘違いした者は多い。
帝に見初められたと聞き、「どんな美女か」と興味本位で見に行けば、あどけない顔をした少女。
女房の多くは「主上は趣味がお悪い」と、内心呆れたものだ。
だが、その少女のような尚侍が皇子を産んだ。産んでしまったのだ。
どうせなら自分たちが仕える女御に皇子を生んで欲しかった。そうすれば
女御腹の皇子が東宮になれば、ゆくゆくは
現実は非常である。
後宮に来て日が浅い尚侍に皇子が産まれたのだ。
長年、
「それでも
「言えてますわね。あの方に男宮がいらっしゃれば一の宮さまを差し置いて、東宮に立てていたでしょうに」
「
「左大臣さまは公明正大なお方ですのに……」
親が人格者だと、子も立派になるとは限らない。
左大臣家は特にそれが顕著だった。
「尚侍さま少なくとも敵にはなりませんわ。右大臣派に連なる方ですもの」
「ええ、一の宮さま同様に二の宮さまも
「今すぐは難しいのではなくて?」
「あら、どうして?」
「
「まあ、それは一大事!」
女房たちは扇で顔を隠しながら笑いあった。
入内して何年にもなるというのに一向に懐妊の兆しのない女御。
一の宮を
身分の上下に厳しい。
いくら皇子を産んだところで、女御と尚侍とでは身分が違う。
ましてや、後宮を二分する勢力を持つ
圧倒的に
しかも右大臣の実娘。
皇子を産んだとはいえ、所詮、養女に過ぎない尚侍を実娘を差し置いて優遇するとは思えない。
現に、右大臣は実娘を優先している。
今は皇子を産んだ尚侍に気遣っているが、それも全て尚侍が産んだ皇子を実娘の
右大臣という男は、そういう男である。
そういう意味で
彼女たちは知らない。
右大臣の愛情の深さを。
彼が誰を最も愛しているのかを。
愛する人の娘を実娘同然の扱いをしていることを。
何も知らないでいる。
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