ファイル.02 神隠しの村に巣食う大蛇と二人の姉妹(7)

 九十九たちの背後から、上半身が裸の女性で、下半身が蛇の姿をした怪異が、恐ろしい速さで近づいてきた。


「来たか。サキ君は私の後ろにいろ!」


「はい、先生!」


『ゼロ、君の力を解放するぞ!』


『ああ、任せろ!』


 九十九は、ゼロの力を解放した。

 九十九の身体に、ゼロの狼の特徴が出現して、白く輝くオーラが全身を覆った。


 九十九の爪が狼のように鋭くなり、素早く姦姦蛇螺の腕を切り裂いた。


 腕を切り裂かれた姦姦蛇螺は、すぐに別の腕を生やして、腕を増やした。


 そして……。


「うみちゃん、うみちゃん、助けて!」


「お前は……、まりえ!」


 姦姦蛇螺のお腹に、まりえの顔が出現した。


「ちっ、すでに取り込まれていたか!」


 姦姦蛇螺と戦う九十九だったが、まりえの顔を見た九十九は、明らかに動揺していた。


「人間よ、聞け。私は、私を裏切った人間たちの子孫を、簡単に許すわけにはいかなかった。だが、年月が流れて、私も丸くなったのさ。だから、今はあいつらが贄を差し出すことで、あいつらの罪を許してやっているのだ。そして、これはこの村の人間では無いお前には、関係のないことだ。お前が今すぐ手を引くなら、この場所に立ち入った罪を許して、見逃してやってもいい。どうする?」


「お前がどう思っていようが、私には関係ないよ。だが、少し前にお前が喰った女は私の親友でね。彼女は返してもらう」


「せっかくチャンスをやったのに、残念だ。だが、お前は交じっているな。お前も私と同じで、怪異を体内に宿しているのか。だが、沢山の人間を喰ってきた私の方が、お前の中の怪異より、だいぶ強いようだ。残念だが、今のお前に勝ち目はない。諦めろ」


 姦姦蛇螺の言葉のとおり、この怪異の強さは圧倒的で、ゼロの力を借りても、九十九が勝てるとは思えなかった。


『あいつの言うとおりだ。悔しいが、今の俺たちでは勝てそうにないぜ。お前の友達が取り込まれてるから、こないだみたいに、神を自分の身体に憑依させるわけにもいかないだろう? どうする?』


『確かに、自分を付喪神にしてしまうと、コントロールが効かなくなるからな。最悪の場合、まりえごと、あの怪異を倒してしまうかもしれない……。だが、私を誰だと思っている、ゼロ。この九十九が、怪異に負けることなど、ありえない』


『勝算があるんだな。やっぱりとんでもない奴だよお前は。最高のパートナーだ』


 森を逃げながら、道中で仕込んでおいた木の付喪神を使って姦姦蛇螺に攻撃する九十九。


『森の中の木に付喪神を仕込んでいたのか。流石だな、お前』


『戦いとは常に二手、三手先を読んで行うものだって昔誰かが言ってたからな。それに、段取り八分といって、準備をしっかりしておくのが、成功への一番の近道なんだ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る