ずっと大好きでした

猫石

サローイン編 前編

 私、クローディア・ナジェリィ子爵令嬢には婚約者がいる。


 それは、学年一モテると持て囃されているサローイン・レダン伯爵令息様。


 真っ黒で真っ直ぐな髪に、夕暮れの赤い瞳の私とは対照的な、柔らかに波打つ金の髪に、春の日の空のような澄んだ水色の瞳が美しい、童話の「王子様」のような容姿の人。


 私と彼は、両親が仲が良いことで婚約話が出始めた。


 決定打になったのは、10歳の時。


 サローイン様の伯爵家で虫害で借金ができた。 この時、我が家は商会を持ち内福だったことから、持参金という形でそれを我が家が援助をし、その証にと婚約者になった。


 私は嬉しかった。


 だってサローイン様が大好きだったから。


 彼もそうだと思っていた。


 週に一度、お茶会で、いつも私に可愛いと微笑んでくれ、手を繋いでお散歩をしたりして、少しずつやり取りを増やし、愛を育んでいたはずだったから。


 少なくとも私はそのつもりだった。


 でも彼は違った。


 16歳、彼と私、2人で貴族も平民も平等という名のもと運営されている王立学園に入学した次の月、彼は恋がしたい、運命の人と結婚したい、と、婚約の保留を申し出た。


 前年、学園では第5王子殿下が卒業式で婚約者を婚約破棄し、市井生まれの女性と結婚した。


 市井でも学園でも、これぞ『運命の恋』だと、大変もてはやされていた。


 その事と、彼が学園一の美男子という事で、様々な女性から秋波を送られた出来事の二つが、悪い方に向いた結果だった。


 両家の両親は強く反対した。


 婚約は白紙にも破棄にもされず、継続されることとなった。


 なのにあなたは、婚約者はいないと公言した。


 運命の相手と出会いたいんだ、と、声をかけて来る女生徒たちみんなの誘いに乗った。


 美しいと評判の子爵令嬢や


 愛らしい声だと有名な男爵令嬢。


 裕福な商家の女生徒に。


 特待生になった女性を。


 美しい花を行きかう美しい蝶々のように、ひらひらとあちらこちらに彷徨ってゆく。


 その間、貴方は一度も私のことを顧みることはなかった。


 学園内で会った時、他の方のように穏やかに挨拶をしても無視される。


 廊下でばったり会えば踵を返して去って行ってしまう。


 その内、学園内では私を避けるようになっていき。


 仕方なく、約束を取りつけるためにご自宅へ手紙を送っても、封も切らずに返された。


 何通出しても、一度も封を切られないまま戻される手紙。


 悲しくて、寂しくて、辛い。


 だから、私は賭けに出た。


 貴方のいう運命の人がどのような人なのか。


 そして、私の運命の人が貴方なのかどうかを知るために。

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