3章 ダンジョンと仲間
第83話 師匠のために
「師匠!これ!これプレゼントさせてください!」
「あん?」
オレは嬉々として空中にモニターを表示させて、そのモニターを師匠に向かって投げつけた。車椅子の師匠がそれを左手のデバイスでキャッチする。
今いるのは高校の訓練場、師匠は変わらずオレたちの訓練を指導してくれていた。変わったことは、師匠がふわふわ浮いている車椅子に座っていること。そして、稽古の相手を師匠が出来なくなってしまったことだろう。
「なんだ?脳波制御レッグスーツ?」
そう、オレが師匠に見せたのは、四肢が不自由な人のために開発された義足メーカーの製品だった。その製品を使えば、足の感覚がなくなった人でも、脳波によって足を動かせるようになるらしい。
「なるほどな。まぁ、車椅子よりはかなり良さそうだ。しかしな……値段が、2000万もするじゃねーか……」
「そんなの大丈夫ですよ!」
「しかしだな……」
「何遠慮してんのよ。池袋駅ダンジョンの報酬額、荻堂せんせも知ってるでしょ?」
「あー、2億3千万だったか?しかしだな、おまえらには、日常生活の補助ロボットも貰ったばっかだしなぁ……」
「あ!そういえばヘラクレスのやつはどうですか!役に立ってますか!」
「ああ、クレスのやつには世話になってる」
「それは良かった!」
ヘラクレスというのは、足が不自由になった師匠のために購入したロボットのことだ。見た目はうちのアトムに似ていて、170センチくらいの人型ロボット、アトムは両耳にアンテナがあるが、ヘラクレスはおでこに一本角が生えている。アトムはグレーなのだが、ヘラクレスは濃い青色をしていた。
ヘラクレスは、もともとは、戦闘訓練用のロボットなのだが、1番高スペックのフルオプションでオーダーしたので、家事全般と介護的なこともこなせるスーパーロボットなのである。
「いや、良かった、というかだな……あいつも相当高かっただろう?」
「大丈夫っす!1番有意義な賞金の使い道だと思ってるので!」
ヘラクレスの値段は、3000万くらいだったか?まぁ、野暮なことは言うまい。師匠が快適ならそれでいいのだ!
「じゃ、注文しとくから。身体の寸法測るわよ」
「あ、おい……」
ピピ。鈴が師匠の同意を聞く前に測定計を持って師匠をスキャンし始めた。すぐに計測が終わる。
「はい、おしまい。陸人、データ送っといたから」
「サンキュ!いいっすよね!師匠!」
「……あー、まぁ……なら、ありがたく。おまえらの気持ちを受け取らせてもらう。ありがとな」
「へへ!いいってことっすよ!」
「塩らしくなったわね。訓練中もそれくらい優しくして欲しいんだけど?」
「あ?それとこれとは話がちげーだろ」
「うぇ〜」
鈴が舌を出して悪態をつく。
オレはそのやりとりを見ながら、師匠の補助スーツをポチポチと注文しようとした。
「あ、待て、咲守」
「ん?なんすか?」
「その補助スーツだが、アメリカ製だったか?」
「え?あーはい。そうみたいっすね?」
製造メーカーの会社の住所を見ると、カリフォルニア、と書いてあった。
「なら、あっちにいる弟子に持ってこさせた方が安くなるかもしれねぇ。ちょっと待ってくれ」
「弟子?師匠、オレたち以外に弟子とかいたんすか?」
「へ〜、意外だね。ゆあたち以外と仲良くできたんだ?」
「どういう意味だ?的場」
「し、しらな〜い」
睨まれたゆあちゃんがピューッと逃げていく。
「で、その弟子というのは?」
「ああ、俺の剣を学びたいとか言って突然現れた変わりモンで、俺が修行してるときに片手間で教えてやったやつだ。2年とちょっとの間、勝手に道場にきては勝手に技を盗んでたな」
「ほほう?それ、いつの話ですか?」
「おまえらがくる1年位前じゃねーか?ああ、やっぱ、今アメリカにいるってよ。工場受け取りにしといてくれれば、持って日本に向かうとさ。ほれ、これが連絡先だ」
ピッと師匠のデバイスから、連絡先が飛んでくる。名前を確認した。
「ムーニャ・フロストライン?アメリカの人ですか?」
「いや、イギリス?だったか?忘れた」
「あんた、弟子のことも覚えてないわけ?」
「あんときは俺も必死に修行してたんだよ」
「ふ〜ん」
「でも、なんで日本に来るんですか?アメリカでやることがあるんじゃないんですか?」
「もともと、あいつには声をかけてあったからな。日本に来てダンジョン攻略を手伝えって。そのついでだ」
「え?それってつまり?」
「おまえらの新しい仲間……候補ってやつだな」
「おお!マジすか!なんか熱い展開ですね!」
「いや……まぁ、まだ候補だからな。ウマが合うかどうかは……まっ、その辺は会ってみればわかんだろ」
「ほう?」
なんだか、師匠の歯切れが悪い気もしたが、とりあえずムーニャさんにメールで連絡を入れて、打合せしたのち、師匠の補助スーツの注文を完了した。
ムーニャさん曰く、2週間後には、補助スーツを持って日本に来る、という話なので、到着が楽しみである。
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