虐げられた者の幸福論

兎森うさ子

1.

夏祭りから数日が経った。


弟の匡にほぼ無理やり身なりを整えさせられた上に連れて行かれた先で、詐欺に遭いそうになった。

身なりを整えていようがいまいが、悪いことしか起きなく、とんだ酷い目に遭った。


しか、というのは大袈裟な言い方だったと思う。その中でも、ジルヴァと共に見た花火はとても良かったと思えるものがあったのだから。

今もこの胸にあの時の感動が刻まれている。


しかしいつまでもその感動に浸っている場合ではない。

今日もジルヴァ達──と一応言っておこう──のために、バイトをしなくては。


だが、しかし。

腕に目線を落とす。


普段履かない草履で走ったせいで盛大に転んでしまった傷が未だに生々しくあった。

このような姿ではさすがに接客はできない。


すぐに治ると思っていたと高を括っていたが、ここまでだとは思わず、仕方ないと直接オーナーにその旨を伝えに言った。すると、


『久須くんは日頃からよく働いてくれますからね。この機会に有給にしてあげますから休みなさい』


有給は貯まっているので、少し長めに取れますよと冗談混じりに言って。

オーナーには仕事のことから大した事情を言ってないのにも関わらず、ジルヴァの世話までしてくれて、本当に頭が上がらない。

その恩返しに自分に何ができるのだろう。


「それにしても、こんなにも治らないとは」

「そりゃあ兄貴、まともな栄養を取ってないからだ!」


気づけば独り言を呟くと、近くにいた一応の弟が声を大にして返してきた。

あまり声を上げないで欲しい。近所迷惑であるし、何より頭に響く。

胡乱な目を向ける。

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