凱旋
凱旋。初陣となったナカソネ軍との戦いは、多数の死傷者を出したものの勝ち戦となった。
なかでも、サルタ一位である
あの、人類最強「ヤチホコ・フジナミ」を討ち取り、生きたまま連行してきたのだ。
「この功績を讃え、結城旭を【ヤチホコ】とする」
「ありがとうございます、玄徳さま。……しかし、多くの死傷者を出しました」
「皆、覚悟の上だ。しかも「黄昏の義賊」にも遭遇したそうではないか。よく、無事でいられたものだ」
「「黄昏の義賊」とは何なのですか?」
「……ふむ、我々にも分からないのだ。戦場に忽然と現れるそれは、奇妙な術を使い戦場を混乱させるといわれる……別名【不死の軍団】ともいわれ、一方的に蹂躙したのち、幻のように消えるという」
「幻のように消える……」
「結城さん、「ヤチホコ」への昇進おめでとうございます。さすが、お爺さまが見込んだ男ですわ」
「紫苑……さま……見込んだなんて、もったいない言葉です」
「謙遜することはないわ。あの「フジナミ」を捕らえて来たのですもの、貴方はクロズミ領の英雄よ……それで……結城さん、今晩お食事でもいかが?」
「――!えっと……今日は報告書の作成とフジナミへの面会がありますので……またの機会にお誘いください。申し訳ございません」
「……そう……残念ね。ではまたお誘いしますね」
「……はい」
紫苑に目をつけられてしまった。俺にはレイメイがいるし、ハルを守っていかなければならない。コイツに絡まれてる暇はないんだ!
それに紫苑と食事でも行こうものなら、影沼からさらに嫌がらせを、されかねない。
ヤチホコ・ハヤトは旭の治癒を受けていないので重傷で療養中だ。フジナミの一撃をもらいながらも、命があっただけ、運が良かったというべきだろう。
しかし身体中の骨が粉砕していたため、今は入院中、旭クラスの治癒でなければ復帰は難しいだろう。
問題のフジナミは牢獄にいる。
「フジナミさん、どうして逃げないんですか?こんなところ、いつでも出られるんでしょ?それとも復元した腕の調子が悪いとか?」
「ガハハハ!待っておったぞ。腕は、お主のおかげで元通りだ。こんな拘束も我にとっては何の問題も無いな」
「じゃあ、とっとと逃げてください。連れて来たのは、俺を庇って気絶してたからであって、あのままほっとくと誰かに殺されると思ったからです。もう元気なら出て行ってもらって構わないですよ」
「ガハハハ、やはりお主は変わっておるな。「カイヒャクの卵」ともなるとヤヲヨロズの人間とは、かけ離れておる!」
「打首の寸前とかでは助けたりしませんよ。だから、早く出てってもらえますか?」
目を瞑り、空を仰ぐようにするフジナミの返答を、しばらく待つ。
「我はお主に付こうと考えている」
「……え?……付く?……それって……」
「ガハハハ、ナカソネ領にはもともと雇われていたしな。つまり鞍替えだ!」
「……はぁぁ!?」
「結城旭よ!お主はこの先に何を望む」
「この先!?……俺は……」
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フジナミはこの戦だけでなく、たくさんの命を奪ってきた。もちろん、クロズミ領には、家族が殺された者もいるだろう。
だが、この【ヤヲヨロズ】という国は「武」がすべて。雇われとはいえ先程まで殺し合いしていても「寝返り」は受け入れるのだ。
旭には信じられないが、この国では当たり前。むしろ「人類最強」などは領地を攻め落とす切り札にもなり得ると、迎え入れられてしまうというのが現実だ。
頭では分かっていても心では納得いかない者も少なからずはいるが、【スサノオ】が決めたことなら従う……それがこの【ヤヲヨロズ】の仕組みだ。
スサノオ・ゲントクは迎え入れることを決め、本人の希望により、旭の部隊へと配属された。
「我が主……この男は信用出来るのですか?」
「あ、旭サマ……ウチらこの人に殺されかけましたよね」
悠と朱里は不安を隠しきれない。
「さすが旭だ!まさか伝説の男を仲間にするとは!」
望はそのへんをあまり気にしない。
「この男から学べるものはありそうね」
美月は前向きに自身の成長を考える。
「ガハハハ、先日はすまなかったな!お主らもなかなか良かったぞ!我は旭と「ヤヲヨロズ統一」を目指す!お主らもこの野望についてこい!」
「「「――【ヤヲヨロズ統一】!」」」
「本気……?」
「我が主……感激いたしました!」
「ウオォ!旭、一生ついていくぞ!」
「旭サマ、カッコいい」
「い……いや……そんな大袈裟なものじゃ……」
ちょ、ちょっと……ヤバい……フジナミさんの言い方がカッコ良過ぎて否定出来ない。たしかに、すべての領地を治められたらいいね、とは言ったけど……もっと軽い気持ちだったんだけどなぁ……。
「ガハハハ、そうか、そうか、旭にとって「ヤヲヨロズ統一」なんてたいした事はないか!ガハハハ」
「「「――!」」」
なっ!?そういうことでは……。
「主……うう……」
「旭サマ……うっとり〜」
「旭ならそうだな!やれるだろう」
「アタシも頑張らなきゃ!」
「……」
否定するのも面倒になった旭は、誤解を解くこともなく家に帰る。レイメイとの時間前というのもあり、真っ直ぐ帰ると、街のみんなが家の前にいる。
「「「結城くんが、帰ってきたぞ!」」」
旭は囲まれて身動きが取れない。ヤチホコへの昇進が街まで届いていたようだ。
みんなが、俺の昇進を自分のことのように喜んでくれているようだ。ありがたい……こんなにもたくさんの人に祝ってもらえるなんて……。
「旭くん、昇進おめでとう。まさか、あのフジナミを倒してしまうなんて僕の想像以上だよ」
「阿木先生……はっきりいって次やっても勝てるかどうか……まぐれです」
「戦場はそういうところだ。見ていたわけではないが、君の判断力が勝ちを手繰り寄せたのだと思うよ」
「……見てきたようですね」
「君が勝つにはそんなところかな……っとね!」
「すみません、すみません、旭兄さんは……?」
申し訳なさそうに人混みをかき分けて来る。旭の顔を見て涙を流す晴に「ただいま」と声をかけると、胸に飛び込んできた……彼女は、その泣き顔を隠すことなく、涙声で「おかえりなさい」と言うと子供のように泣いてしまった。
旭はそっと抱きしめて、自身の無事と晴の無事をあらためて実感したのだ。
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