5

 5人はキャンプ場にやって来た。駐車場には車が停まっていない。もう何週間も泊まる人がいない事があるらしい。それだけ利用する人が少ないんだろう。10年前に来た時はそこそこいたが、こんなに少なくなるとは。以下に宇藤原が衰退したかがよくわかる。


「着いたね」

「うん」


 山崎は辺りを見渡した。あの頃と全く変わっていない。まるで、自分たちが帰ってくるのを待っていたかのようだ。だが、今日帰ってきたのは別れのためだ。もうすぐこのキャンプ場は閉鎖になる。残念だが、それが時の流れだ。


「あの時と全く変わってないね」

「うん」


 上田も変わっていないのに驚いた。だが、それは整備があまり進んでいないからだと思われる。


「でも、前に比べて静かになったね」

「ああ。これだけ宇藤原が寂しくなったことを表しているようだね」


 神崎は以前より衰退した宇藤原の現在の姿に、キャンプ場を重ねた。徐々に人は減っていく。キャンプ場も思い出のかなたへと消えてしまう。それは致し方ない事なんだろうか?


「そうだね。もうあの時の賑わいは戻ってこないんだね」

「うん。いい所なのに、閉鎖になるんだね」


 井川も残念そうだ。その後も、両親とキャンプを楽しんだ事がよくある。だけど、父が転勤になってから、徐々に行かなくなった。


「時代の流れだよ」

「残念でたまらないよ」

「うん」


 御村は残念そうに風景を見ていた。こんな素晴らしい風景なのに、都会の人々に伝わらない。このキャンプ場はとてもいいのに。どうしてわかってくれないんだろう。都会の人々は、こんなのに興味がないんだろうか? それとも、不便だから行きたがらないんだろうか?


「また思い出の場所が消えていくんだね」

「小学校に続いて、キャンプ場も・・・」


 上田は消えていく施設を、思い出に重ね合わせた。やがてここで暮らした日々は思い出のかなたに消えていくだろう。そして、宇藤原は消えていくだろう。


「そして小学校の頃の記憶はだんだん薄れていく」


 と、山崎は肩を叩いた。どうしたんだろう。


「だけど、僕らの友情は、消えないさ」

「そうだね」


 上田は少し元気が出た。宇藤原は消えても、友情は消えない。そして、宇藤原の記憶はどこかに受け継がれていくだろう。


 5人はキャンプ場の事務所にやって来た。事務所も昔と変わっていない。管理人の山本は元気だろうか? あの時とどう変わったんだろう。


 事務所に入ると、1人の女がやって来た。山本だ。あの時と変わっていない。


「あら、今日予約してた人だね」

「はい。5名の山崎です」


 山崎は笑みを浮かべた。彼らを見て、山本は驚いた。10年前にキャンプをしたあの子たちだ。10年後、また帰ってきたとは。とても嬉しいな。


「あの時と変わってないね」

「そうですか。10年も経ったんですけどね」


 神崎は苦笑いをしている。けっこう変わったと言われているのに、どうしてだろう。


 チェックインを済ませた5人は、近くを流れる川に向かった。川は10年前と変わっていない。水は清らかに流れている。懐かしい風景だ。


「帰りたいと思ってた?」


 上田は思った。彼らは、また宇藤原に帰りたいと思っていたんだろうか?


「ううん。東京での日々が楽しいから。だけど、ここもいいね」


 山崎は東京での生活がいいと思っているようだ。あらゆるものが手に入り、豊かさがある東京がいいに決まっている。だが、今日の宇藤原の様子を見ると、本当にいいんだろうかと思ってしまう。


「そっか。どちらかというと、東京なの?」

「うん」


 やっぱり東京がいいと思っているようだ。上田もそう思っている。だって、豊かだから。


「そりゃあ、東京の方が便利だもんね」

「うん」


 井川は宇藤原の現状を見て、寂しくなった。都会が発展していく中で、宇藤原のような田舎は寂れていく。それを食い止めるには、何が必要なんだろう。


「だから、人はいなくなっちゃうんだね」

「そして、宇藤原は消えてしまうんだな」

「ああ」


 5人は寂しくなった。故郷が消えてしまうのは、誰も悲しいはずだ。だけど、どうして過疎化が進むんだろうか? どうして何とも思わないんだろうか?


 と、5人は川べりに降りてみようと思った。川の清らかさは昔と変わっていないんだろうか?


「降りてみようよ!」

「うん」


 5人は川べりにやって来た。この辺りは鮎釣りのスポットだが、あまり来ていないようだ。昔はよく来ていたんだが、釣る人が少なくなってきた。


 山崎はしゃがみ、川をすくい上げた。とても透明感がある。これぞ清流と言える水だ。


「きれいだね」

「昔と変わっていないね」

「ああ」


 他の4人も感動していた。こんな清らかな水、東京の人にも知ってほしいな。こんな自然豊かな場所があるんだと。


「都会の人々が失ったものって、これじゃないのかな?」


 ふと、上田は思った。都会の人々が失った自然って、これじゃないのかな? 今こそ、地球のあるべき姿を、人々に見てほしいな。


「そうかもしれないね」


 井川も同感だ。これが地球のあるべき姿なんだ。だけど、都市化が進む中で、自然は失われていく。


「都会の人にも知ってほしいね。地球の本来の姿を」

「これが、地球の本来の姿なんだね」


 5人は思った。発展していくのはいい事だ。だけどそれで、失われていく物にも目を向けなければならない。どうすればわかってくれるんだろう。答えが見つからない。

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