第10話
山を降りて、麓の町にやってきた。
ここは勘吉さんが住んでいる町なんだけど、大きめのスーパーとかホームセンターがあって頻繁に利用させてもらってる。
町とは言うけれど、僕が前に住んでた都内とは違って長閑な雰囲気がある。
周囲にあるのは、田んぼと山だけ。
住んでるのは1万人くらいって言ってたっけ?
人付き合いに疲れた僕にとっては、ある意味天国だよね。
そんな町のホームセンターで購入するのはコンクリートブロックとレンガ、合わせて250個くらい。
よくよく考えると結構な量だな。
あとは鉄板と鉄筋……それにセメント粘土。
買うものが多いので、事前に連絡して必要数を注文しておいた。
「しかし、かなり多いな……」
支払いを済ませていざ運ぼうと思ったんだけど、山のようなレンガとブロックを前に少々げんなりしてしまった。
これは車に運ぶだけでも一苦労だ。
一緒に来てくれたモチが手伝ってくれたら助かるんだけど、そんなことができるわけもないし。
ちなみに、モチは車でお留守番中。
いつもはカートに乗って店内に入る(店員さんの許可済み)んだけど、今日は荷物が多いので待ってもらってる。
ちょっとふてくされてたけど、いつものおやつをあげればごきげんになるはずだ。
「とりあえず、運ぶか」
ここで途方に暮れていても仕方がないし。
台車を使って少しずつ車に運ぶ。
優しい店員さんが手伝ってくれたおかげもあって5往復くらいで全部トラックの荷台に積み込むことができた。
しかし、運ぶだけで疲れちゃったな。
歳だけは取りたくないものである。
「……くわっ!」
モチが車の窓から「例のブツはまだですか!?」と顔を覗かせた。
はいはい、わかってるって。
買い物が終わったらホームセンターの入口にある、たい焼き屋で大判焼きを買うのがいつもの流れなんだよね。
今日は畑作業を手伝ってくれたり、しっかりとお留守番してくれたから特別にふたつ買ってあげようじゃないか。
「ちょっと待っててな?」
「ぐっ、ぐっ」
財布を片手に、再びホームセンターに向かう。
すると、凄い量の買い物をしている人が目に止まった。
両手では持てないくらいのレジ袋を前に、呆然と立ち尽くしてしまっている。
何だろうあれ。
すんごい気になる。
一体何を買ったんだ……ってのもだけど、服装がめちゃくちゃ変だった。
まるで「危険な病原菌が蔓延している研究所から脱出してきました」と言いたげなゴム製の防護服を着ていたのだ。
さらに帽子にマスク、サングラスまで。
……怪しい。
実に怪しすぎる。
ていうか、そんな格好でよくお店に入れたね?
実際、その怪しい格好が災いしてか誰も近づこうとしないし。
さっき手伝ってくれた優しい店員さんも、遠巻きに見ているだけ。
まぁ、そうなるよね……。
だけど、ちょっと可哀想。
すんごく怪しい見た目だけど、困ってるよ、絶対。
大量の荷物をひとりで運ぶのは大変だって、身を持って経験したばかりだし。
「あの、お手伝いしましょうか?」
なので、声をかけてみた。
我ながらお人好しすぎる性格である。
「……えっ!?」
防護服の人はギョッとして(表情はわからなかったけど)しばらくワタワタしてた後、ぺこりと頭を下げた。
「あ、ありがとうございますッス!」
女性の声だった。
それもすごく若そうな。
改めて言うけれど、このホームセンターがあるのはド田舎だ。
周りには田んぼしかなくて、若者が遊ぶような場所はない。
なのに若い女性──それも、全身防護服で大量の買い物をしてるなんて。
気になる。
めっちゃくちゃ気になる!
だけど、あなたは何者なんですか、なんて聞けるわけもなく。
「お車はどちらに?」
「あ、えと、こっちッス!」
防護服の女性と一緒に、台車をゴロゴロと押していく。
一台じゃ乗り切れなかったので、店員さんに声をかけてもう一台借りて。
到着した駐車場に停まっていたのは、僕のと似た軽トラックだった。
え? 若い女性が軽トラック?
……いやまぁ、冷静に考えると気に留めることじゃないけど、ここまできたら何から何まで怪しく思えちゃうよね。
レジ袋に詰まっていたのは、日用品とか食料っぽい。
大量のお酒もある。
もしかしてこっちに別荘でもあって、長期宿泊でもするのかな?
なんて考えながら、荷物を荷台に載せていく。
「あ、あの」
ひと通り荷物を載せ終わると、防護服の女性が声をかけてきた。
「ほ、本当にありがとうございます。マジで助かりました」
ペコリとお辞儀をしかけて、ハッと何かに気づく彼女。
顔を隠したままなのは失礼だと思ったのか、あわてて帽子やマスクを外して素顔を見せてくれた。
びっくりした。
若い女性だとは思ってたけど──ギャルだったんだもん。
カラコンを入れているのか瞳は青く、肌はこんがり焼けていて、腰まであろうかというサラサラの髪は黄金色に輝いている。
金髪ギャル、防護服、軽トラに大量の買い物……。
あの、気になるゲージが振り切っちゃってるんですけど?
「えっと、これ、手伝ってくれたお礼ッス。どうぞ」
防護服ギャルさんがレジ袋を漁って、ジュースとお菓子をくれた。
「あ、え……ありがとうございます」
「それじゃあ、失礼するッス!」
ギャルさんはぺこりと頭を下げると車に乗り込み、颯爽と立ち去っていった。
お菓子とジュースを持ったまま、固まってしまう僕。
勢いでもらっちゃったけど、お礼とか大丈夫だったんだけどな。
しかし、助けたお礼に食べ物って、何か既視感があるっていうか。
「……はっ!? まさかあの子も御科岳の不思議動物!?」
ほら! 白狼さんって、お礼に木の実とかくれるじゃない!?
それと一緒で、手伝ってくれたお礼にお菓子とジュースをくれて──。
「んなわけないか」
何だか恥ずかしくなって、頭をポリポリ。
しかし、御科岳って本当に不思議な場所だなぁ。
毎日、色々な発見があるっていうか。
のんびりできるし刺激的なこともある。
なんて楽しい場所なんだろう。
感心しながら車に戻ると、激オコのモチが。
「ぐわわっ! オソイ!」
ドアを開けた瞬間、めちゃくちゃ突っつかれてしまった。
痛い痛い。
ちょっと、本気で突っついてませんか、モチさん!?
そんなモチさんの怒りは、ガサガサと僕の体を物色した後さらにヒートアップする。
「くわっ! ぐわっ! がーがーがーっ!」
「え? 何?」
「オオバンヤキ、ナイぐわっ!」
「……ああっ!?」
し、しまった!
色々あったから、買うのをすっかり忘れてた!
「ごめんモチ。今日はこれで勘弁してくれない?」
防護服ギャルさんがくれたお菓子を献上する。
「が!? ……ぐわっぐわっ!」
訝しげな目で見ていたモチだったけど、お菓子を見た瞬間、大喜びで飛び跳ねまくる。
「がーがーがー! ぐっ、ぐっ、ぐっ! アケテ!」
「はいはい、ちょっと待って」
袋を開けた瞬間、ガガガッと勢いよく食べはじめる。
それを見て、呆れ笑いを浮かべながらジュースを飲む僕。
こいつはホントに。
チョロいというか現金というか、子供みたいで可愛いヤツだなぁ。
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