第23話 突破口


レフトのアイツは正面にいる、倫太郎のブロックを押しのけて打ち抜いた。三枚あるブロックに力で勝った。その姿はまるでうちの奏のようだった。あいつみたいな持ってる力全てをつぎ込むようなスパイクは見てて気持ちがいい。矢のような速度で迫ってくるボールを見ながらそう考える。突然の出来事で動けないからだとは比例して、頭の中ではグルグルと無駄なことばかり思い浮かんでくる。ボールは動けない俺をあざ笑うように目の前に落ちていった


ドンッ!トンッ…トン


ボールが壊れたんじゃないかと勘違いするほど大きな音と振動が体に響いてくる。練習でよく喰らってる奏と同じくらいの衝撃だ。植木コートにいる全員が今の衝撃を受け取って固まる。強敵に出会ったらよく笑う小次郎でさえも、目を見開いたまま動かない


「よ~し!!全部俺に持ってこいやー!!」


「ナイッス!ワンちゃん!さいっこ~」


向こうではスパイクを打ったあいつを囲んで全員で喜んでいる。あまりにも差があり過ぎる雰囲気にため息をつきながら監督が声を出した


「小次郎!まとめろ!!」


その言葉の後に、タイムアウトの笛が鳴る。この試合は口を出すつもりはないといっていた監督が今日初めていった言葉だった。その声に築かされたのか、小次郎と洋一が全員をダッシュで集合させる。そして全員で円陣を組み、小次郎の方に顔を向けたのを確認して小次郎が話し出す


「いったん落ち着こう、あいつのスパイクはとんでもなかった。でもそれは本当に今気づいたことか?」


全員と目を合わせる小次郎に洋一が答える


「そう…だな、俺たちは無意識のうちに生神世代以外をただの一年生だと侮っていたのかもしれない。あいつらは俺たちよりも実戦を経験しているということを忘れちゃいけない。俺たちがあいつらの年齢の時に、ここまでできたか?…そもそも、第一セットボロボロに負けているんだ」


みんなの気持ちを引き締めるため、洋一が強い口調で話す。一呼吸置いた後、もう一度口を開いた


「日本の至宝、バレーの至宝と呼ばれている生神がいる以上、チームの平均値では絶対に勝てない。でも俺たちが確実に勝っているところが一つある。なんだと思う?」


昇は何もわからなかったのか、首をかしげながら口を開いた


「バレー歴?」


相変わらずの脊髄直通会話にため息を隠さずに洋一が答えを口に出す


「連携だよ、連携。向こうは最近できた即席チーム、こっちはチーム歴八年だぞ。向こうがいちいち声に出さないと伝わらないものがこっちはそれぞれが察することができる。ということは?」


「タイムラグがないってことだな!」


小次郎が笑いながら答えた。そのまま話を続ける


「幸い、向こうのセッターは今日の調子が悪いらしい。あいつのことしっかり知ってる奴いるか?」


「俺、全国大会見に行ったよ。大樹って覚えてる?そいつが仲良かった後輩が全国でたって喜んでたんだ。そんで場所知ってるからって俺も付き添いで見に行ってさ」


と少し上を向きながら答える金子。少し止まりながら話しているから、少しずつ思い出しているのだろう。少し止まった後正面に目線を戻した


「その時見たんだ、確か三回戦目、大阪代表との闘いだったな」


「あ、それは…」


後輩から声が漏れてきた。俺たちよりも近くで戦ってきたからこそわかるものがあるんだろう


「そう、生神世代のセッター、光藤孝雄との戦いだ。そこであいつはストレート負けだった。大樹が言うにはいつもの冷静さがなくなっている。おそらく格上の相手に張り切り過ぎてから回っているんだ。ってな今のあいつはそれに似てる。もしかしたらトスが単調になるかもしれない」


洋一が悔しそうな顔をしながら金子に聞いた


「光藤が強すぎたという可能性は?」


「ある」


即答、とはいえ否定はできない。生神と鳴瀬しか生神世代を知らないけれど生神は勿論のこと突然のポジション変更に当然のように対応して見せる鳴瀬は脅威でしかない


「正直はたから見てもトスの違いが目立った、たとえるならば…東本は80%を確実に出すセッター、光藤は90%から100%、200%を出させるセッターだな。でも大樹が言うにはもっと抗えるはず、ストレート負けはないと、もしかしたら緊張しやすいのかもな」


「彼には悪いが、ラッキーだな」


俺は思わず口に出してしまった。全力を出せていないならば十分付け入るスキはある


「そうか?弱くなっちゃうんだぞ?」


俺の言葉を本当に理解していないのか、目を丸めて俺に聞いてくる小次郎。それに苦笑いしながら洋一が口を開いた


「お前は生粋のバレー狂いだからな。とりあえず、セッターをよ~くマークな、頼んだぞ」


俺が言葉に詰まっているのを察して代わりに話を切り替えてくれた。小次郎は洋一の話に首をかしげる


「なんだよも~ま、いっか。…お前ら、行くぞ!!」


───おう!!


改めて覚悟を決めたタイムアウト、水分補給をすましたらコート内に踏み出す。次はあのサーバーだ。生神の強さにかき消されたけどあいつも十分やばい。昇に任せきりにならないように気を付けないと


「おい、智、気にするなよ」


「わかってます!あなたは自分の仕事をしてください」


「…そうか、わかった」


なんだ、なんかもめてんのか?視線の端では生神を叱っている鳴瀬が見える。本当に何があったんだ。はた目から見ても鳴瀬の生神贔屓は見て取れるんだが…


「まったく、たとえ思い通りにならなかったからといってあの言い方はないだろう?」


「じゃあほかになんて言えばいいのさ」


「はぁ」


この四人が原因でこのチームが少しギスギスしているみたいだ。この様子をネット越しに見てた俺たちの心がそろう。今の状態で逆転できれば、月天は完全に崩れる、と


彼らがこのような雰囲気になったのには理由がある。それはタイムアウト中の聖の言葉が原因だ

それは、相手にタイムアウトを取らせることができたからと、作戦を考えていた時のことだった


「う~ん、なんか変な感じ」


「変な感じ、とは?」


聖が何気なく漏らした疑問を丁寧に拾う蓮。口に出したりしないがチームメンバーも聖の言葉に耳を傾ける。聖の言葉は正しいことが多く、その違和感を治せれば成長することができる。しかし聖は本気になればなるほど辛辣で、アドバイスを受けて壊れていった者たちは数知れず(彼の元チームメイトによるとバレー以外を捨てたバレー狂いだそうだ)すこし心の準備をしながら言葉を待つ


「う~ん、暇ってのもあるんだろうけど…なんか、遅くない?」


「遅いとは、何がだ?」


「一つ一つのプレー全部、かな。確かに最後の剛のスパイクはよかったけど今回、僕がいないからこっちに明確な決定打がない。だから、相手に拾われるんじゃないかな?今のところ決まってるスパイクでコースを読まれてないの合った?ま、間に合ってないのはあるけど」


「そうか、ならもう少し早く助走に移ろう」


「そ~だね、僕いないし蓮の中学の時みたいな積極性みたいなぁ。僕と一緒にいるとサポートしかしないんだもの」


「すまない、俺が打つよりもお前が打つのを見るほうが好きなんだ」


「そっか、で、智」


大や黄金と話していた智は、急に話しかけられて思わず肩を震わせた。試合が始まったばかりなのになぜか汗が垂れてきた


「な、なんでしょうか」


「体調悪い?」


「いえ、そんなことは決して…」


そういうと聖は顎に手を当てながら首をかしげる


「そう?なんかトス変じゃない?ま、第一セット僕だけで勝ったみたいなもんだからアップできなかったとか?」


「へ?トスが…へん、変?」


「そーだよ!だって前に見た時よりも…全中の時もっとすごかったよ?」


「テンポを上げろということでしょうか」


「うん。頑張って」


「はい…」


ここからはあまり全員では離さず二、三人で固まって会話をしていた。だが、笛が鳴る瞬間、思い出したかのように聖が声を出す


「あ!思い出した!!」


「何をだ?」


「なんか今の状況なんかに似てるな~って思ったけど、智の最後の試合に似てるね!もしかして緊張してる?」


「…その話はやめてください」


「なんで?共通点を見つけることは改善に繋が」


「やめてください!!」


珍しく聖に睨めつけて、語気を強める智。見たことない智の様子に面白くないのか、頬を膨らませながら口を開いた


「……そんなこと言ってるから、孝雄にバカにされるじゃないの」


智はその言葉に目を見開いて固まる。その様子にもう一度口を開こうとするが蓮に口をふさがれた


「んぐ、んん!」


「聖。落ち着いてくれ。頼む」


「黄金君、智君のこと連れて行ってあげて!」


固まって動かない智のことを見て、大が黄金に指示を飛ばした。黄金はその言葉に頷き、智の腕を引いた


「智、先にコートに行こう」


「………」


その様子を静観していたネコと剛は、面倒なことになったと頭を抱えていた



​───────

追記

しばらく忙しいのでお休みします。ここまで読んでくださりありがとうございます。しばらくの間、お待ちください。

良ければ応援、批評などよろしくお願いします

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