第45話 ゼントVS大勇者ゲルドン③
俺、ゼント・ラージェントと、大勇者ゲルドンの試合は、まだ続く!
俺のチョークスリーパー……!
ぐぐぐ……。
「こ、このぉ……! ゼントォォ!」
うつ伏せのゲルドンはそう言いつつ、耐える。俺は右腕で、ゲルドンの
だが、ゲルドンは首が太いから、俺の細い腕ではなかなか極まらない!
ぐぐぐぐっ……!
俺は力を入れる。
「させるか、ゼントォ……」
ゲルドンは指を、自分の首と俺の腕の間に、何とか差し入れようとする。首が締まるのを防いでいるのだ。
(ぐ……っ。ゲルドン! しぶといヤツだ!)
俺の腕の力も、少しずつなくなってきた。ゲルドンも必死だ。
しかし、ゲルドンも体力がなくなってきて、冷や汗をかいている。
――俺は
ドガッ
ドガッ
ガスッ
「うぐっ、ぐぐぐ……」
ゲルドンはうめいた。どうやら、ゲルドンは組み技になった時の、打撃の防御が下手らしい。自分で攻めてばっかりいたからだろうか?
ガスッ
その時、うつぶせになっているゲルドンの振り回してきた肘が、俺の
「う、ぐっ!」
い、
俺は思わず声を上げた。な、何だ? この痛さは! まるで鉄で殴られたようだ!
俺はついに、
「フフフッ」
ゲルドンはニタリと笑って、俺を蹴っ飛ばし、スッと立ち上がった。
また、俺とゲルドンは、立って闘うことになる!
そういえば、ゲルドンの
「審判!」
ミランダさんが気付いたようだ。
「彼の
しかし、審判団たちは聞こえぬフリだ。
審判はゲルドンのサポーターをチェックする気がない……?
俺はゲルドンをにらみつけたが、ゲルドンは言った。
「ああ、肘サポーターの中に、『何か』は入ってるぜ? かた~い金属のようなものがな」
「ゲ、ゲルドン! どういうつもりだ!」
「誰も俺には注意できねえ。俺はこのトーナメンとの『主催者』だからな!」
ゲルドンは再び、ニタリと笑った。
俺は逆に集中した。こんな反則野郎に負けるわけにはいかない――。
「どおおりゃあああーっ!」
ゲルドンは襲いかかってきた。
上から振り下ろすようなハンマーパンチ!
しかし、俺はそれをよく見ていて、パンチを
ガスウッ
俺は――左アッパーをゲルドンのアゴに叩き込んでいた。カウンターだ!
ゲルドンはひるんだような表情で、目を丸くしていた。しかし、ゲルドンは踏んばり、強烈な前蹴り!
ガシイッ
だが、当たったのは俺の右ストレート! 前蹴りを
「うう……ゼント、てめぇ……。どうなってるんだ、てめえの強さは……」
ゲルドンは、肩で息をしている。体力が切れてきたらしい。
(何だ、この大勇者は。もう息切れか)
(情けない大勇者だ。もう出て行こう)
ん? 変な声が俺の耳元で聞こえたぞ?
その時だ。
何と、ゲルドンの耳や口、鼻から白い霧のようなものが、ヒュッと出ていった。
それと同時に、ゲルドンの
まさか? サーガ族とやらの
ようし――ここだ!
俺からいくぜ、ゲルドン!
「う……! ま、待て!」
俺は一歩足を踏み出した。ゲルドンはあわてて、両手を構える。
ガシイッ
俺はゲルドンに、右フックを彼の耳の後ろに叩きつけた。耳の後ろは――急所だ!
ひるむゲルドン――しかし、ゲルドンの目が、ギラリと輝いた。
「俺も――俺だって、大勇者なんだ……。国民のヒーローだ。だから、負けるわけには、いかねええんだああああーっ!」
何と、ゲルドンの体が光り輝いたような気がした。それは、亡霊たちの不気味な、蜃気楼のようなもやではなかった。ゲルドン自身の、内から出る本当の
ゲルドンの左フック! まるでぶん回すような、
バスウッ
俺は左手で受ける。
ガッスウウッ
今度はゲルドンの左前蹴り!
俺は
重い蹴りだ、ゲルドン! しかし――ここだああっ!
俺は
手の平の下部を使った打撃――
グワシイッ
逆に、俺の
――完全に急所に入った――。
「あ、あぐ……!」
ゲルドンはヨロヨロとふらつき……しまいにはようやく……ついに!
リング上に、
「ゲルドン……ダ、ダウンか?」
「お、おい、マジか? 大勇者が?」
「あれ、完全にアゴに入ったぞ……! ゼントが勝った……?」
観客がざわついている。
審判団も眉をひそめて、相談している。あわてている表情だ。
しかしゲルドンはリングに
「……力が……
ゲルドンは、何とか立ち上がろうとした。
しかし、立ち上がろうとした瞬間に、よろける。そして、リングに張りめぐらされているロープに寄りかかった。
立つのか……?
いや、ゲルドンはふらついた。――そして、またリングに
「降参だ……」
ゲルドンは首を横に振りつつ、言った。
「俺の負けだよ、ゼント」
審判団はゲルドンの様子を見て、困惑していたが、やがて
『えー……は、8分11秒、ギブアップ勝ちにより、ゼント・ラージェントの勝ち!」
ウオオオオオオーッ
「や、やりやがったあああああーっ!」
「ゼントのやつ、大勇者を倒しちまったあああ!」
「すげええーっ! 体重差を乗り越えた!」
観客たちが声を上げる。
「やったああああーっ!」
リングに上がってきたのは、エルサだった。
エルサは俺に抱きついた。
「すごい、すごい、すごい、ゼント! 本当にすごいよお!」
「分かった分かった、落ち着け」
「ありがとう、ありがとう、ゼント!」
エルサは泣いている。ゲルドンに不倫をさそわれ捨てられ……色々あったものな……。
ゲルドンといえば、白魔法医師の診察を受け、タンカに乗せられた。
「ゼント! ゼント! ゼント!」
「優勝しろよー!」
観客席から、俺を呼ぶ声がたくさん聞こえる。
俺は――大勇者に……
俺とエルサは、
しかし!
リング下で待っていたのは、セバスチャンだった。
彼は握手を求めてきた。
「まさか、まさか。大勇者を倒してしまうなんて、お見事ですね、ゼント・ラージェント君」
セバスチャンはにこやかに言った。あきらかに作った笑顔だ。
俺は握手に応じなかった。セバスチャンは話を続ける。
「まったくゲルドンは、使えない、情けない男ですよ。観ていて笑ってしまいました」
「ゲルドンの秘書兼執事が、ゲルドンをそんな風に言っていいのか?」
俺は聞いたが、セバスチャンはひょうひょうと言った。
「別に構いやしません。私はもう、ゲルドンの秘書はやめましたから。今日限りで」
「なに?」
「私は、すでに
「こ、国王
国王
セバスチャンが、その隊長になるってのか?
「名実ともに、私の立場、権力はグランバーン王に次ぐNO2となります。君を倒せばね……。ゲルドン? 大勇者? そんなもの私の足元にも
セバスチャンは急に俺をにらみつけた。
「私は、君には絶対に、勝たねばならないんですよ! 自分の野望のためにね!」
セバスチャンから、不気味な
ゲルドンと一緒だ。いや、ゲルドンよりも、
こいつも、サーガ族とかなんとかの
……おや? その時、エルサが俺の前に出た。エルサの横には、アシュリーもいる。
(エルサ?)
俺は首を
「パパ……。もうひどいことは、やめて」
な、なん……だと……? パパ……?
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