第18話 エルサの過去②

 俺はミランダさんの魔法で、エルサの過去――17年前の出来事を半透明の体で見ている。


 モンスター討伐が終わった後、フェリシアを妻にしているゲルドンは、あろうことか、エルサに不倫ふりん関係になることを持ちかけた――。


 ゲルドンとエルサ、そして新しいパーティーメンバーの銀髪ぎんぱつの少年(名前不明)は、モンスターを討伐とうばつした。

 その後、中央地区のギルドへ向かった。グランバーン王国最大のギルドだ。


「おい、バルーゼ、ワーウルフとビッグマウスを討伐とうばつしたぜ」


 ゲルドンはギルドに着くと、さっそくギルドマスターのバルーゼ氏に言った。ゲルドンのほおは、エルサにぶたれて赤くなっている。


「ほぉー! あの難敵、ワーウルフとビッグマウスをですか? さすがですね!」


 ギルドのマスター、バルーゼはもみ手をしながら大げさに言った。ふん、大勇者のゲルドンに頭が上がらないってのか。

 するとゲルドンはニヤニヤ笑いながら、後ろのエルサを指差し、バルーゼに言った。


「それでだな。このエルサが、一身上の都合で、ギルドをやめたいんだとよ」

「な、何?」


 エルサは後ろから、驚いたように声を上げた。


「あたしがギルドをやめたい? ゲルドン、何を言ってるんだ? あたしはそんなことを希望した覚えはない!」

「――バルーゼ、命令だ。さっさとエルサのギルドの登録を抹消まっしょうしてくれ」


 若きゲルドンはエルサの訴えを無視して、冷たくバルーゼに言った。バルーゼは困惑した表情で、ゲルドンとエルサを交互に見ている。

 お、おい、ゲルドン。お前、何を言っているんだ? 意味分からんぞ。


 一方、クスクス笑っているのは、銀髪ぎんぱつ少年だ。一体、こいつは誰なんだ?


「おい! 何を血迷ったことを言っているんだ、ゲルドン!」


 エルサは声を上げた。


「ギルドの登録がなければ、あたしはどうやって生活すればいいんだ! 今まで剣士一本でやってきたんだぞ。バルーゼ、ゲルドンの言っていることは無視してくれ!」


 すると、ゲルドンは何と暴力的なことか、エルサの胸ぐらをつかみ上げた。


「じゃあ、エルサ――。俺とのさっきの約束、受け入れてくれるよな。受け入れなきゃ、娼婦しょうふにでもなって、体でかせぐんだな」


 ドガッ


「うっ……」


 エルサは床に放り投げられた。

 そうか! ゲルドンは再び、エルサに自分と不倫ふりん関係になることを持ちかけている。それを受け入れろ、とあんに迫っているのだ。


 周囲の人々は、驚いてゲルドンたちの方を見ている。


 この世の人間は、皆、ギルドに加入している。そこから職業を手に入れるのだ。ギルドをやめるとなると、まともな仕事につくことは不可能だ。

 つまり――ギルドから登録抹消とうろくまっしょうされれば、この世でまともに生きていくことは不可能。

 一度、登録抹消とうろくまっしょうされれば、三年間は再登録できない。


「な、なんだ、何かトラブルか?」

「いやまて、ありゃ、勇者のゲルドンじゃねえのか?」

「お、本当だ。グランバーンの大スターじゃねえか。何のさわぎだ」


 ギルドにいた人々は、うわさをし始めた。


「ゲルドン様、もうそれくらいで」


 謎のもう一人のパーティーメンバー、銀髪ぎんぱつの少年は笑いながら言った。


「いや、しかしだな、セバスチャン」


 ゲルドンは床に投げつけられたエルサを、にらみつけながら言った。セバスチャン? 誰だ?


「皆が見ていますから、ここのところはおさめて」


 銀髪ぎんぱつ少年――セバスチャンは静かにアドバイスした。ゲルドンはハッとして、あわてて周囲の人たちに言った。


「お、おお! さわがしくして悪かったな。別に何でもねぇよ。ちょっとした、金のトラブルさ」


 ゲルドンはエルサを見やりながら言った。金のトラブル? 大ウソだ。

 ゲルドンは、しゃがみ込み、静かに言った。


「エルサ――。お前とフェリシアは親友だったな。だけど関係ねえよ。エルサ、お前が俺様を受け入れたら、今後、いい生活をさせてやるぜえ?」


 ゲルドン……まるで悪魔のような顔だ。


 パシイッ


 エルサはまた、ゲルドンの右頬みぎほおを平手で叩いた。


「断る! 幼なじみの――親友のフェリシアを裏切れない!」

「……強情な女だ」


 ゲルドンは右頬みぎほおをさすりながら舌打ちし、セバスチャンとともに、外に出ていった。


(後は……現実の世界で話す。戻ろう)


 現在のエルサの声が、俺の耳元で響く。


 俺は――冷や汗をかいていた。何でこんなことになっているんだ?

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