第12話 アシュリーと古書売りデート!

 次の日――。

 

 俺は目が覚めた。ここは? 

 いつも通りのボロい天井。見慣れた俺の部屋だ。


「きゃあああ~!」


 うおっ! その時、地下から大声がした。驚いた俺は素早く地下に降りた。


 アシュリーが床に座って、本を読んでいる。アシュリーの横には、子ども部屋の地下にある本が、高く積まれていた。


 アシュリー……本当にいたのか。

 昨日のことは、夢じゃなかったのか。俺はホッとした。


 アシュリーは本の山を目の前にして、声を上げた。


「ほら、この本! 『マインダ・エレベント』ですよ。約五百年前の魔導書です。こっちは『ビスタ霊界旅行記』。売ったら大変な価値がある本ばっかり!」


 俺はアシュリーがいてくれたことに安堵あんどした。

 そうか……本を売って旅の資金にするって手もあるか。


「まあ……売ったら200ルピーくらいかな?」

「そんなことないですよ!」


 アシュリーは怒った。


「200ルピーどころか、もっと! 1000倍以上の価値があります!」


 せ、せんばい……? 本当かよ? 確かめてみるか。


 俺はアシュリーと一緒に、子ども部屋の本を売るため、村の商店街に出向くことにした。

 本に詳しいアシュリーに、7冊、価値がありそうな本を厳選してもらった。


 ――しかし俺は、20年の引きこもりだった!


「怖ぇえええええ~!」


 商店街に行くのが、20年ぶりなのだ! 人ごみが怖い!


「ほら、これで大丈夫でしょ?」


 アシュリーはそう言って笑って、ギュッと俺の腕を組んでくれた。アシュリーの……女の子のにおいがする……。


 うれしいけど……。


「やっぱり、怖ぇええええええ~!」


 ◇ ◇ ◇


 俺とアシュリーは商店街に入って、古本屋を探した。人通りは結構ある。俺は知り合いに会わないかビクビクしながら、歩いた。

 と、その時――。


「おらあっ! 邪魔なんだよ、この看板!」


 ドガアッ


 その時、目の前の男――16歳くらいの少年が、商店街の立て看板を蹴っ飛ばした。


(あっ! あいつ!)


 こないだの不良少年! チョッキを着たヤツだ。ゼボールの仲間だったか。肩で風を切って歩いている。今日も来ていたのか……。仲間はいないようだが。


ドガッ


 今度は、道行くおじさんの肩に、チョッキ少年の肩がぶつかった。

 チョッキ少年はおじさんにすごむ。


「痛ぇんだよ! 俺を誰だと思ってんだ! ゼボール様の舎弟しゃてい、デリック様だぞ!」


 ガスッ


「ぎゃっ!」


 デリックは、おじさんの背中を蹴った! 

おじさんは逃げてしまった――。あいつ、デリックって名前だったのか。あの野郎、どうしてこんな時に、村に来てるんだよ。それにしても乱暴なヤツだな……。

 考えていると、チョッキ少年――デリックは道を右に曲がって行ってしまった。


 さ、さあ、本を売らないと。

  

 ◇ ◇ ◇


 うーむ……古本屋はあったはずだが、潰れたようだ。しかし、本が売れそうな質屋しちやを見つけることができた。質屋か……あまりよく知らない店だ。


 ビクビクしながら店に入ると……質屋の店主は、俺をジロリとにらんだ。


「……いらっしゃい。村の外の者か? 珍しいな」


 アシュリーは自信満々に、店主に言った。


「本を売りたいのですが!」


 ダン! ダン! ダン! 

 

 アシュリーはそんな音とともに、俺が持っているカバンから、古書を一冊ずつ取り出し、カウンターに置いた。計7冊――。


「これはきっと良い本ですよ! 5万ルピー以上にはなると思うわ!」


 アシュリーが言った。お、おい、アシュリー。5万って……んな無茶な。こんなボロい本が……? 俺がそう思っていると、質屋の店主は舌打ちした。


「5万ルピー? はあ? こんな古くせえ本が?」


 そして質屋の店主は言った。


「嬢ちゃん、こんな本、300ルピーにもならんぞ。めんどうくせえなあ。一応、査定してやるが。一時間くらいかかる。そこらで待ってろ」


 質屋の店主はまた舌打ちして、俺たちをにらみつけながら言った。

 

 ◇ ◇ ◇


 俺とアシュリーは、外に出た。どこかで休憩するか。


 するとその時――。


「いてえっ! 何しやがんだ、ジジイ!」


 何だ? 大声がしたぞ。見ると、道の真ん中で、例のチョッキを着た少年と六十歳くらいの男がもめている。地面にはパン――チョココロネが散らばっていた。


 またさっきの不良――チョッキ少年、デリックか!


 一方、六十歳くらいの男は……? げええっ! 二十年前、俺に銀トレーを投げつけたパン屋の主人、ブルビーノ親父! 少し老けたが、面影はある。


「おいパン屋! 俺様にぶつかって服にチョコをつけるなんて……。謝罪じゃ済まさねえよ?」


 デリックはブルビーノ親父に対して、すごんだ。


「も、申し訳ありません。急いでいたもので」


 確かに、デリックのチョッキに、チョココロネのチョコがついている。ぶつかった時に、付着したのだろう。


「謝罪じゃすまねーんだよ!」


 デリックは、ブルビーノ親父を蹴っ飛ばした。ブルビーノ親父は、腹を蹴られ、地面に尻持ちをついた。


 野次馬が集まってきている。ちょっとした騒ぎだ。


 すると――。


『ゼント! あのチョッキ少年……デリックをこらしめてやりなさい』


 俺の頭の中に、例の守護天使マリアの声が響いた!


 へ? 何を言って……。


『あの不良少年、デリックをこらしめなさい! あなたならできる!』

「え、え、え」


 こらしめなさいって……何? お、おい、おれが、あいつを? 何で俺が?


 あなたならできる? そ、そんなバカな?


 アシュリーも俺のことを、「パン屋さんを助けてあげて」という真剣なまなざしで見ている。


 う、うわああ……マ、マジでやるのぉ?


 ていうか、やることになる感じだ、こりゃ。

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