第10話 その頃、ゲルドンは②

 ゼントが美少女アシュリーと同じベッドで寝て、謎の脳内美女、マリアと話した次の日の朝――。


 その日の朝十時、国民的英雄、大勇者ゲルドンは馬車でグランバーン王国の北、レインバッド墓地へ旅立っていた。


 三人のパーティーメンバーと新聞記者二人を引き連れている。


 王族のフェント・ラサン氏から依頼された、骸骨拳闘士――スケルトンファイター退治のためだ。

 レインバッド墓地には、ラサン一族の墓地があるが、スケルトンファイターに荒らされて困っているということである。


「よーし、ここから歩くぞ。俺様についてこい!」


 ゲルドンは、仲間たちに向かって声を上げた。


 墓地に近づくと、地面はぬかるんでくる。馬車を降りなければならない。


「あなたは本当に強い大勇者ですね!」


 ヒゲの新聞記者は、ゲルドンにインタビューしながら歩いた。


「『神に守られた大勇者』とも言われています。十六歳で四天王を打ち倒し、当時からお付き合いされていた、フェリシア様は、大聖女なのですから」

「ハハハ! まあ俺様は、本当に神に守られているんじゃねーか、と思いたくなってくるんだよね」


 ゲルドンは豪快に笑いながら、歩いている。


「人生ツキまくり~なんてな! だが、今日は戦闘の実力の方も、しっかり取材してくれよな」

「ゲルドンさん、一生ついていきますぜ!」


 ゲルドンの横に並んで歩いている、パーティーメンバーの武闘家ぶとうか、クオリファは、おべっかを言った。


「おう、俺様についてきな! ガハハ!」


 ゲルドンは上機嫌だ。

 

 大勇者ゲルドンの現在のパーティーメンバーは、大僧侶のティーザン、武闘家ぶとうかクオリファ、黒魔法使いのゴンドスだ。今日も一緒についてきている。

 妻のフェリシアに気を使って、全員男だが。


『警告。ゲルドン・ウォーレンさんが持っているスキル――【神の加護】の有効期限が切れています』

 

 ん? 頭の中で、そんな声がしたような気がする。ゲルドンは首を傾げながら、歩いた。気のせいか……。


 ゲルドンはここ十年、彼らと一緒に魔物討伐をしている。最近、四天王のグラッシュドーガを討ち倒したのも、このメンバーだった。

 さすが俺! 神はこの俺の味方よ!


「ん? い、いてっ」


 その時だ。ゲルドンの足に激痛が走った。皆、驚いてゲルドンの足を見ると、何と、派手な色の蛇がゲルドンの足にみついている。レインバッド地区で、蛇が見られるのは珍しい。


「こ、こりゃ、パルティー・スネークだよ」


 ゲルドンは苦笑いしながら、蛇を踏みつけ、ポイと沿道に捨てた。


「毒なんかありゃしない。おとなしい蛇だ」


 すると……!  


 ボチャン


 その時、仲間のクオリファが、泥に足を滑らせて川に転落した。怪我はなかったが、少し肘を打ったようだ。クオリファも頭をかいている。


(な、なんだ?)


 ゲルドンは嫌な予感がした。不運といえば不運ではあるが、たいしたことではない。蛇にまれ、仲間が足を滑らせただけだ。

 だが、何かの予兆をしめしているような気がして、何となく胸がざわついた。


「だ、大丈夫ッスかね、俺たち」


 武闘家ぶとうかのクオリファがつぶやいた。


「バーカ言ってんじゃねえぞ、足を滑らせたくらいで」


 ゲルドンはガハハハと一笑した。


「俺様は大勇者ゲルドンだぞ。俺らは最強のモンスター討伐隊だ。どんなモンスターも、俺らにかないはしねえよ!」


 ゲルドンは高らかに笑った。


 数時間後には、その笑い顔が真っ青になることも知らずに。


『警告。ゲルドン・ウォーレンさんが持っていた、【神の加護】の有効期限が切れています』

 

 ゲルドンには、またそんな声が聞こえたような気がした。

 くそ、何だってんだよ。ゲルドンはブツブツ言いながら、一行を従え、スケルトンファイター生息地まで、歩いていった。

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