第7話
俺はよく見ると宝物庫だと思わしき部屋の中で金銀や宝石に取り囲まれていた。
す、すごい……流石たかだか俺1人寝る部屋も金ピカにするだけあるな……。
思い返せばここに来るまでの廊下にも意味ありげな変な彫刻置いてあったり無駄に装飾がされていたのを思い出す。これだけの財があれば国さえも買えそうである。
決してやましい気持ちがある訳では無いが少し部屋を物色してみることにする。金の延べ棒が積んであったり眩い煌めきを放つ沢山の宝石が詰まった宝箱、珍しい物まで盛りだくさんだ。
やっぱり魔『王』なだけあって財力有り余ってるな。
なんて感心していたが俺は「ん?」と不思議に思う。王とはいえ国を統治している感じでは無い魔王がこれだけの品々を普通に集められるのだろうか?否、絶対に無理だ。リュートが野菜を売っているなんかと言っていたがそんなものではこれ程のものを集められるとは考えにくい。そうとなれば思いつくことは1つ。
強奪……。
そうだ、それしか思いつかない。つまりこれらは元々人間のものであるはずだ。どこかの村や町、城なんかも襲ったのだろう。
だが今更何も驚くことでは無い。そもそも魔王はそういうものだろう。
「…………」
俺はようやく事態の深刻さに気がついた。
アイツは今まで俺に惚れたとか言う理由で人畜無害を装っていた。それに騙され、惑わされ、俺は日々何気なく見過ごしていた。だがしかし中身は魔王である。裏ではこのように弱き者から財をせしめていたのである。
なんたる卑劣な……
俺は怒りが込み上げてくる。魔王への怒りが込み上げてくるのは当然だが、それよりも自分の情けのなさに頭にくる。世界を救う勇者が魔王の庇護下の元のうのうと生きてるなんて知ったらどう思うだろうか?そんなこと決して誰も許すはずがないだろう。
俺の……責任だ……。
俺がこの城で馬鹿やってる間にもきっと苦しめられた人々が少なからずいるはずだ。その人達を俺は自分が監禁されているという甘ったれた理由で救えなかった。救ってやることが出来なかった……。
その人達への償いも込めてやることはもう決まっている。
自分を恥ながらも俺は部屋を出ることにする。
早くアイツを始末しなければ……。
俺は扉に触れようとした。その瞬間
「こんなとこ居たのか」
突然扉が開きリュートが入って来た。
「!」
「折角お前のために一糸まとわぬ姿になってやったってのに居なくなるなんて酷い恋人だ……」
「死ね!」
俺は急に見つかり焦りはしたもののなんとか剣を振るった。それをリュートは「おっと」と言いながら簡単に避ける。
「なんだ、その剣見つけたのか。盗ったことを怒ってんのか?忘れてたのは悪かったがちゃんと返すつもりだったって……おっと」
俺は無言で剣を振るう。しかし、上手くかわされ剣は空を切るばかりだ。
「落ち着け、それは返すし機嫌直せって。それともなんかあったのか?」
「なんかあったかだって?大ありだ!この部屋をよく見ろ!」
俺は近くの金の山を指さす。
「金……だな。まあ、宝物庫だから珍しくもないだろ」
「いいか!これは紛うことなきお前の悪行の成果を表すものだ!こんな事を勇者の俺が見過ごすことはできない!」
俺はまた剣をリュート目掛けて振り下ろす。再び空振りするがリュートを部屋の隅に追いやることが出来た。
「観念しろ!魔王め!」
「落ち着けって。俺は何もしていない。この宝物庫の物も俺は知らない。俺は……」
そう言いかけた魔王の首に刃を押し当てる。
「黙れ!お前はやはり悪の権化、世界の平和を脅かす敵に違いは無い!だからお前は必ず倒す……!世界を救うためにお前は殺す!」
「…………そうか」
流石に観念したのか魔王は目を伏せ、両手を軽く上げて降伏のポーズをとった。
やはりこの剣には敵わないだろう。なんせ悪魔をも殺すとされている聖なる剣だ。大人しく死んでもらう!
俺は渾身の力で剣を振り上げた。
「魔王!これがお前の最後……だ!?」
一瞬、視界が歪んだせいで焦点がずれ、魔王への渾身の一撃はまた空を切る。
なんだ!?今のは!?
と、思う間もなく、ボヤつく視界が一瞬で戻り、俺は驚愕する。たった今居た宝物庫とは違う場所に俺は移動していたのだ。
広く薄暗い空間を四方八方の壁にあるロウソクの火が照らしている。そして部屋の奥には大きな黒光りした突起の付いた玉座が置いてある。そこには肩肘をつき、長い脚を組む魔王の姿があった。まさかここは……。
ここは……魔王の間……!
間違いない、俺が初めて魔王と出くわし、コテンパンにやられた場所だ。何故こんなところに……と思っていると魔王はすくっと立ち上がる。
「フハハハハ!よくぞ参ったな勇者よ!」
「何言ってんだ!お前がなにかしてここに連れてきたんだろ!」
「まあな!俺の転移魔法を使えばこのとうりだ!」
フハハハハ!とまた高笑をする魔王。
「こんなところに連れて来てなんのつもりだ!」
俺は改めて剣を構える。
「なんで連れてきたかって?そりゃあ、お前の為にお膳立てしてやってるんだろう!」
「お膳立て……?」
「ああそうだ、負け犬のくせに聞き分けなく今更勇者ぶって俺様と戦いたがっているお前に最高の場所をご用意してやったって訳だ!感謝しろ!」
「くっ……!ふざけやがって……!」
言われていることが本当の事だからこそ腹立たしい。早く叩き切ってやりたい。
俺はジリッと魔王に近寄る。
「慌てるな慌てるな。どうせ時間はたっぷりある。お前を痛ぶる時間だがな」
「どういうことだ!」
それの言葉に魔王はフッと不敵な笑みをこぼす。
「教えてやろう!お前はここで勇者として名誉の死を遂げることは出来ぬ!死なない程度に痛ぶるだけ痛ぶり続けられるのだ!そして!ここでお前を完全に、完膚なきまでにぶっ叩き、その勇者精神をズタズタにして俺様の嫁になるしか道が無いことを分からせてやる!」
こいつ……こんな状況でも俺を嫁にだなんて本当に舐めてやがる……
「お前……マジでムカつく……」
「ムカついて結構!さあ、さっさと来るなら来い」
魔王は長い両手を広げ、待ち構える。
どこからでも襲えってか?それ程自信満々というわけか。いいだろう、そっちこそ木っ端微塵にしてやる!
微動だにせずただただ待ち構える魔王めがけて俺は突進して行った。
「うおおおおおお!」
世界の為、勇者という役割を果たす為、俺は果敢に2度目の最終決戦に挑んだ。
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