第5話
「は?」
「……え?」
俺はその一言に目を開ける。そこには俺を白い目で見つめるリュートの顔があった。
そしてまた一言
「は?」
え、なに、「は?」ってなに?
明らかに冷めきっている表情……いや、これは完全にドン引きされている。俺はこの状況がなんなのか、なんでこんなことになってるのか考える。そしてハッとし、慌てて弁解を始める。
「そ、そうだよな!確かに男が子供を産むなんて聞いたことないしな!でもほら、子供は神様が授けるものだから何があるか分からないしキスはちょっと……」
「ミオ、お前それマジで言ってんのか……?」
「え?」
「え?じゃねえんだわ。お前……もしかしてキスしたら子供出来るとか思ってんのか……?」
「え?」
「だから「え?」じゃねえ!ホントに思ってんのか!?」
リュートは俺の肩を掴みユサユサと揺らす。険しい顔に俺は「えっと……」と1呼吸置いて話す。
「だって村の女性はみんな年相応になると大体好きな人が出来て」
「それで?」
「結婚式を挙げて」
「それで?」
「教会でキスして……」
「……それで?」
「子供ができる」
「なんでだよ!なんでそんな3分クッ○ングでもしねぇような大胆な省略の仕方で出来ると思ってんだよ!お前いくつだよ!?」
「俺は19歳だ」
「真面目に答えんな!ピュアか!」
リュートは何故か頭を抱えている。なんだかいつもの凛々しい姿とは一転してそこら辺の石でも投げつければ倒れるんじゃないかと思うほど弱々しい感じだ。
「くそっ、体から堕としていけば簡単だとか思ってたのに……こんな……こんなピュアなやつどう襲えばいいんだ……」
リュートはなにかを独りでにゴニョゴニョ言い始めた。
「ど、どうした!?頭痛いのか!?」
「それ前回の俺のセリフ!パクんな!つーかお前何も知らなすぎだろ!」
あーもー!と言いながらしゃがみこんでさらに深く頭を抱えるリュート。それをオロオロしながら心配する俺。
俺、そんなに変なこと言ったのか……?
「な、なんか知らないけど、元気だせって」
「…………お前さぁ」
「?」
リュートは体育座りのまま話始める。
「お前男女の夜の営みもなんにも知らないってこと……?」
「いとなみ?抱きしめあったり結婚式でキスすることか?」
「あ、うん、お前の知識量がなんとなく分かったわ……。じゃあ……じゃあさ、俺がお前を押し倒したり、またがったのはなんだと思ってたわけ?」
「それは……。なんだろう、目玉とかくり抜かれるのかなとか思って?」
「なんでだよ!なんで唐突に好きな相手押し倒して目玉くり抜くと思ってんだよ!馬鹿なの!?お前性教育受けてないわけ!?」
「『教育』はちゃんと受けたつもりだけど……」
「じゃあ例えばなに!?」
リュートは吠えるように聞いてきた。
例えば、と聞かれた俺は始まりの村で教わったことを思い出しながら腕を組む。
「俺が村で勇者になるに向けて教わったことはまず『勇者のススメ』という教典を熟読することだろ?あと剣メインの武術、体術に……薬草の種類を覚えるとかだな」
「その他は?」
「あとは森の中で食べられそうなものの見分け方と、勇者たるものどこでも寝られるように野宿したり。」
「つまり……お前はほぼ勇者として『戦う』、『回復』しかコマンドが無いって事……?」
「?……まあ、そんなもんじゃないか?」
「恋愛とかは?」
「え、うーん……。あんまり考えたことないな」
「考えたことないって『食べる』、『寝る』までクリアしといてなんで『性欲』まで行かないんだ!お前、人間の3大欲求すら満たせてないのによく生きてこれたな!?それともお前人間じゃないのか!?もしかして既に人間やめてる!?」
「いやだって、経典には色恋にうつつを抜かすのは良くないって書いてあったし……」
「誰だそんなクソみたいな教えを書いたやつは!ドラ○エ5のあんな落ちぶれた人生送ってた主人公ですら最終的に3人の女から嫁を選べるって言うのにお前は恋愛も禁止なんて聖人にでもなるつもりか!?」
リュートは唸りながら顔を伏せている。こういう時普通、勇者ならば「しめた!」とばかりにコイツをボコボコにしようとか考えたのだろうがいかんせんリュートは本気で俺の事を心配してるように見え、なかなかどうしたものかと悩んでしまう。
本当に俺がおかしいのか……?そんなに俺って異常なのか……?
段々と自分の考えが正しいのか不安に思えてきた。確かに自分は物心着いた時には勇者として生きるように指導を受けて生きてきた。しかも魔王討伐の旅に出るまでは村から出た事もほとんど無い。なので少しばかり世間とズレてるところもあるのかもしれない。
そう思えてきた矢先、リュートは急に立ち上がる。
「ミオ、お前の考えはよーく分かった」
「そ、そうか……?」
「ああ。そして俺のすべき事もな」
「?」
リュートはまた俺のを力強く掴む。なにをされるのかとドキっとしたのも束の間、リュートはなにか決心した様なキリッとした顔つきで俺に言い放つ。
「俺が性教育してやる!」
「へ?」
「この俺が、俺様が生きてきた506年間のありとあらゆる知識を使ってお前に恋愛とはなんたるか教えてやる!」
「え、恋愛って……つーかお前506年も生きてるってヤバ……」
「そんな事はどうでもいい!今に至ってはこんなところで下らない野菜の話する時間すら惜しいくらいだ!」
えええええ!?あんなに変な野菜大事だとか言ってたのに!?
あまりにも急な思考転換に驚いていると不意に体が宙に浮く。リュートが俺の体を抱き上げたのだ。そして俺を小脇に抱えて早々と歩き始める。
「わ!?どこに連れていく気だ!?」
「お前はまたしばらく部屋に缶詰にする。まずは男女の体の仕組みからだ!」
「え、えええええ!?」
この後ミオ・フロースド19歳は本当に健全な人体の不思議から教え込まれるのだった。
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