【二十七.着信・二】
六月十日。月曜日。午前九時五十五分。わたし、十六歳。
白いスマホを取り出す。もう五年も使っている年季の入った代物だ。友達に、機種変を勧められているのは知ってる。けど、小五の時に初めて貰った本格的なケータイだし、それより何より、残っているから。かいちゃんの、最期の遺言が。変えられない。あちこち傷だらけ、何度も落としてガラスフィルムも割れている。でも、傷だらけのあたしには、こんなにぴったりなケータイは他になかった。
そのボロボロのスマホで検索する。多摩南部地域病院……ヒットした。「多摩南部地域病院 交通アクセス」。……京王多摩センター駅からバスが出ているようだ。わたしはサンリオのキャラクターが出迎えるにぎやかな駅を降りて、人工地盤の下のバス乗り場に向かう。乗り場を探す。「多摩南部地域病院行き」……あった。ちょうど停まっている紺色を纏った京王バスに乗り込んだ。ピッ。交通系カードをタッチ。一番後ろに座る。
……ふう。わたしは、上を向いて深く息を吐いた。少し、疲れた。……でも、ここ数日起こっていることをしっかり整理しようと思う。
まず、木曜日。りっくんに告白された。……何してた時だっけ。そうだ。校舎から飛び降りようとしてたんだった。二年C組の教室は二階だったけど、そうしたら今よりもほんの少しだけ楽になれそうに思えた。
で、その日も次の日もバイトして……土曜日。六月八日。かいちゃんの命日。たしかお母さんの状態が良くなくて、夕方帰ってきて……鍵を渡された……ような気がする。それでおばさんと喧嘩して、とびだしたら、かいちゃんがいて。追いかけて小平まで行ったら……りっくんの家があったんだった。
えと……そういえばりっくん、なんで小平に家があるのに、いつも逆方向の橋本の方へ行くんだろう……橋本になにかあるのかな。
……まあ、いいや。手紙を見つけたんだった。りっくんが誰かと写ってるプリクラが入ってて……さっきそれを見たら、電話がかかって来て……そう、かいちゃんの声に聞こえた。あれは間違いなくかいちゃんだった。それで、女の子が落ちてきた。名前は白鷺みそらさん。そして今、わたしはその知らない子の病院に行こうとしている。
……そうだ。わたしはスマホを起動して電話帳を開いた。通話の履歴を見る。
……やっぱり。
「かいちゃん」
そこにはたしかに、おとうとからの着信履歴が残っていた。
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