117_1000年回帰
死の恐怖が全身を凍らせる。
それでもワイトは、執念でそれを押し殺した。ただ生き残るために、ただ敵を討つために、襲いかかる根の動きを見切り、回避に集中する。
《脱力》
刹那、凝り固まった筋肉から力を抜き、糸の切れた人形のように後方へと倒れ込む。背中が落下を始める瞬間、マナを背に集中させ質量を増加させた。
重さが加わり、落下は弾丸のように加速する。咄嗟の判断が功を奏し、頭上を薙ぐ根を紙一重でかわした。
だが――。
かわした根の切っ先から、新たな根が枝分かれし、蛇のように唸りを上げてワイトに迫る。
(くっ、厄介ですね、一か八か)
空中で身体を捻り、抜き放った剣を閃かせる。
ザクッ。
鋼を裂く音と共に、根は寸断され地面に叩きつけられた。間一髪。死は、ほんの指先ほど彼を掠めただけだった。
すぐにワイトは視線を大樹へ――。
そこから、ゆらりと人影が現れる。大樹の一部が変形し、魔法使いの姿を形作る。ローブに身を包み、片手には杖。浮かべる笑みは薄気味悪く、狂気すら滲ませていた。
(あいつが……元凶か)
狙うべき敵を見定め、ワイトは剣を握り直す。回避から一転、攻撃へ。前進を選んだ。
「なんという勇敢さ! 絶望の淵でもなお燃え上がるその闘志!あの男を思い出す……虫酸が走るッ!」
魔法使いは血走った目で咆哮し、瞬間、大地が爆ぜた。複数の根が、獣の群れのように地面から一斉に飛び出す。
(……数が多い。だが、考えるだけ無駄ですね。かわして、切る、それだけです)
ワイトは迷わず駆け出した。
「この根を前にしても絶望しないとは……やはり苛立つ!あなたは私の鑑賞物にして差しあげましょう!」
杖をワイトの方に向けると、鋭い根が次々と槍のように伸びる。今度は根の先端から紫色の毒液が滴り、瘴気を漂わせていた。
(おそらく、あれは毒……だが、当たらなければ問題ありません)
突き出す根を紙一重でかわし、次々と切り払う。剣が閃き、切断面から毒が飛び散るが、ワイトの肌に一滴も触れさせない。
「フフ……やはりこの世界ではマナが薄い。全盛の力には及びませんか。……よろしい、ケトラから奪った“マゴ”を使いましょう。あなたにさらなる絶望を与えるために!」
《拘束魔法》
魔法使いが杖に“マゴ”を注ぎ込むと、地鳴りと共に根が噴き出した。瞬く間にワイトを取り囲み、絡みつき、牢獄のように閉じ込める。
「……っ!」
剣を振るう間もなく、根の檻が完成した。
「あなたはひとまず後回しです。仲間が一人ずつ死んでいくのを、その中で見届けるといい!」
魔法使いは薄笑いを浮かべ、檻に閉じ込められたワイトを嘲る。
「ワイト!!!」
「ワイトさん!!!」
仲間の叫びが戦場に響く。ルーシェと聖騎士たちが駆け寄ろうとするが。
「うるさいハエどもが!消えろ!」
魔法使いが叫ぶと同時に、無数の根が彼らへ襲いかかった。矢のような速さだ。分かっていても、今からでは防御が間に合わない。
(速すぎる、シールドを出す時間がない)
ルーシェの顔が恐怖に染まる。
だが、その時、緊迫した雰囲気を打ち破るように声が響いた。
《マナクロス》
嵐が訪れたかのような轟音。突風が吹き荒れ、戦場を飲み込む。巻き上がった嵐が襲いかかる根を粉砕し、塵に変えて吹き飛ばした。
「な、なんだ、この攻撃はぁあああああ!!!」
魔法使いの目が大きく見開かれる。
砂塵を裂いて、一人の男が飛び出した。閃光のような剣閃が走る。
次の瞬間、魔法使いの左腕がひらりと宙を舞った。
「ぐっ……!」
悲鳴と共に、魔法使いは慌てて後退し、治癒魔法で腕を再生させる。そして、目の前の男を視界にとらえると、口が歪み不気味な笑みを零す。
「やはり来ましたね。あなたなら必ず現れると思っていましたよ、ダンテ」
砂塵を背に立つ影。
左腕を剣に変形させたて立っていたのはダンテ。
その瞳には、すでに炎のような闘志が宿っている。
「……お前は、俺が倒す」
ダンテは低く言い放ち、魔法使いを射抜く視線を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます