115_あの日の記憶

 ――ゴゴゴゴゴゴッ!!!


 ワイトが剣を振り下ろした瞬間、ダンジョンそのものが爆ぜたかのような轟音が響き渡った。地面が震え、空気が裂ける。次の瞬間、凄烈な白光が弾け飛び、あたり一面を包み込む。


 光と同時に吹き荒れる暴風が、地を削り、瓦礫を巻き上げる。その圧力に、ルーシェも精鋭騎士たちも思わず腕で顔を覆い、目を細めた。それでもなお、彼らの視線は光の中心、ワイトの方へと注がれていた。


 ――なんて力……! お姉ちゃんの気配を感じる……。


 ルーシェの胸に、温かくも切ない感覚が込み上げる。ワイトとお姉ちゃんの力が混じり合い、想像を超える力へと昇華していた。


 閃光の中、ルーシェはふと影を見た。そこに、タナの姿があった。


「……お姉ちゃん」


 思わず声がこぼれる。


 幻影のタナは振り返り、優しく微笑む。


「強くなったね、ルーシェ」


 逞しくなったルーシェを見つめるタナの微笑みは、安堵に満ちていた。


 そして、タナはワイトの方へ視線を移す。ワイトもまた、彼女の幻影を見つめていた。


「ワイト……妹を頼む」


 短い言葉。だがその中に、全ての想いと願いが込められていた。


 ワイトは一瞬目を見開くと、目を閉じて静かに頷く。


「……ええ、分かっています」


 彼の脳裏に、タナがギルドへ来た日の光景が蘇る。


※※※


 幼い頃、タナとルーシェは魔物に両親を奪われた。


 あの日から、タナは妹のすべてだった。唯一残された家族を守ること、それが彼女の生きる理由となった。


 ――絶対に、ルーシェを奪わせない。


 しかしタナには魔法の才能がなかった。どれだけ努力しても、基礎魔法すら使えない。魔法使いとしての道は、生まれつきの才能で決まる。それが現実だった。


 それでも、彼女は諦めなかった。あの時の悔しさ。両親を奪われ、ただ泣くことしかできなかった自分。その無力を二度と味わわぬよう、道を探し続けた。


 そして、ある吹雪の日。タナは眠るルーシェを背負い、王都ペンタゴンの聖騎士ギルドの門をくぐった。足は氷のように冷え切り、肩は雪に覆われていた。


 その場で彼女を迎えたのが、ワイトだった。


 彼はタナの目の奥に、揺るぎない意志と魔物への深い憎悪を見た。


「……あなたがタナさんですか。どうでしょう、私たちの仲間になりませんか。ここには、あなたのように大切な人を奪われた者が多くいます。きっと、あなたの力になれると思います」


 その誘いは、彼女が求め続けていた答えだった。タナは微笑み、迷わず頷く。


「もちろんだ。私を仲間に加えてほしい」

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