101_血湧く
無数の昆虫型の魔物が、ダンテとテラをぐるりと取り囲む。甲高い羽音が空気を震わせ、両翼を怪しく震わせながら、獲物を見定めるように2人をじっと見据えていた。
その異様な光景に、ソフィは静かに笑みを浮かべる。
「この怨虫たちの針に一度でも刺されれば、お前たちの命はない…」
針の先端から滴り落ちる黒紫の毒液を目にした瞬間、ダンテとテラの背筋に冷たいものが走った。ひと刺しでもすれば、たちまち全身を毒が巡り、命を奪う猛毒だ。ふたりは反射的に背中合わせになり、互いの呼吸を合わせる。
「ダンテ、いい考えがあるんだ。僕の合図で、風の力を使って真上に跳んでくれ」
テラが小声で囁く。
「分かった。テラ、お前を信じるよ!」
ダンテは頷き、テラの考えに従うことにした。
直後、ソフィの声が響く。
「苦しむがいい……この怨虫どもの毒に侵されてな!」
狂気に満ちた声と同時に、魔物たちが一斉に羽音を立てて2人へ襲いかかった。
テラは鋭く声を放つ。
「今だ、ダンテ、跳べ!」
「おうっ!!」
ダンテは風の力を両手に集中させると、一気に地面に叩きつけるように解き放つ。その反動で、彼の身体は高く空へと舞い上がった。
地上に残ったテラに、すべての敵の視線が集中する。無数の昆虫型の魔物が牙と毒針を剥き出しにし、一斉に突進してくる。
「来いよ……全部、返してやる!」
テラは静かに剣を構え、反射の構えをする。魔物の針が肌に届く寸前、空間が一瞬きらめいた。
次の瞬間、襲いかかった魔物たちは、そのまま己の攻撃の数倍の威力を受けて弾き飛ばされ、周囲に突き飛ばされる。断末魔もあげる間もなく、彼らは光の粒子となって霧散した。
「やるな、テラ……」
空中から降りながら、ダンテが目を見開く。
「俺も負けてられないな!」
着地と同時に、ダンテの左腕が大砲の形へと変形する。砲口に風の力を凝縮し、狙いをソフィに定めた。
「吹き飛べ!」
大気を切り裂くように、風の弾丸が放たれる。
「な、なにっ!?」
思わぬ攻撃に、ソフィの動きが一瞬止まる。弾丸は彼の身体を真正面から貫いた。
「よしっ……直撃した!」
確かな手応えに、ダンテは喜びの声をあげた。
ソフィの体がよろめき、崩れ落ちるかと思われた。
――だが、次の瞬間、彼の周囲に黒い瘴気が立ちこめ、風の弾丸で穿たれたはずの傷が音もなく塞がっていく。
「傷がふさがっていく」
ダンテは、地面に着地すると、ソフィの身体の傷が見る見るうちに治っていく様子に呆然とする。
「……ここまで追い詰められたのは久しぶりだ」
ソフィは顔を上げ、口元に不気味な笑みを浮かべていた。その目には怒りとも喜びともつかない、狂気が滲んでいる。
「……血が湧く。久々だ、この感覚は……少しは楽しめそうだ」
ソフィの身体からは、禍々しい黒炎が立ち上り、空気を焦がしていた。
「今こそ見せてやろう……本当の私の力を!」
彼の背中から、巨大な黒い羽が生えた瞬間、空気が一変する。
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