60_崖の底
「S級治癒師だって!?嘘だろ、最高ランクの治癒師ってことか!!」
ダンテは、彼女の言葉を聞いて思わず驚愕の声が漏れる。1000年前の世界でも、治癒師は存在しており、S級ランクの治癒師の凄さは彼も知っていた。S級治癒師は最高ランクの治癒師に与えられる称号だ。その称号を与えられるのは、100年に一人出るかでないかの確率と言われている。
「その反応を待ってたわ。そう、私は、史上最高ランクの治癒師よ!」
ダンテの反応に満足したのかルーシェは満足気に笑みを浮かべ言った。
「それは確かに心強いな。だけど、S級治癒師の君が、なんでこんな場所にいるんだ?」
ダンテはルーシェが一人この極寒の地にいることに疑問を感じ問いかける。
「実は、お姉ちゃんと一緒にこの辺の調査に来ていたのよね。でも、途中でものすごい猛吹雪にあって別れちゃったの」
ルーシェは少し寂しげな様子を浮かべそう答えた。ダンテは彼女の言葉に頷くと、言った。
「そうなのか。お姉さんと二人でこの場所に来てたんだな。別れたお姉さん、ルーシェのことを探してるかもな。お姉さんは、一人で大丈夫なのか?」
ルーシェもそうだが、こんな極寒の地に一人でいては命がいくつあっても足りない。治癒師である彼女なら、魔法で寒さを耐えしのぐ手段は持っていそうだが、姉の方は果たしてそういう手段を持ち合わせているのか分からない。ダンテは少しそのことが心配になっていた。
「ええ、お姉さんなら大丈夫よ。私のお姉さんは、私よりずっとすごい人だから!!」
ルーシェは、どうやら姉の無事であるという確信があるようだった。ダンテは、ルーシェの態度から姉の心配は無用なのだと悟った。
「S級治癒師のルーシェが言うんだから、お姉さんはよっぽどすごいんだな」
ルーシェが誇らしげに語る姉とはどういった人なのか興味が湧いたダンテは、姉のことについて彼女に尋ねる。
「ええ、もちろんよ!すごいなんてもんじゃない、もはや私の中の神よ!神!さてと……次はあなたが私の質問に答えて!おじさんは、何者なの?あの不審者のことを仲間って言ってたけども、ここに来たことと何か関係ある感じかしら?」
ルーシェは、つぶらな瞳でダンテを興味深そうに見つめながら問いかける。
「俺はダンテ。ルーシェが不審者扱いしている男はテラっていうんだ。怨虫というのに取り憑かれていて、テラは今、理性を失ってしまっている。彼の正気を戻すために、白妖の泉にテラを連れて行きたいと思ってるんだが……」
彼女と話している最中、ダンテは、急に言葉を詰まらせ、立ち止まった。
「どうしたの、一体!?」
ダンテの困惑した様子に、何事かとルーシェが驚きの混じった声を出す。
「目の前が崖になってるんだ。追い詰められたかもしれない」
ダンテの目の前には、平らな雪原ではなく、かなり傾斜のきつい崖になっている。一歩、前に踏み出そうものなら、そのまま、真っ逆さまに崖の下まで落下してしまいそうなほど険しい崖だ。
崖を目の前にして佇むダンテに、ルーシェは思い出したかのように言った。
「ダンテは、白妖の泉に行きたいのよね。その泉なら知ってるわよ。確か、ちょうど、この崖の真下に泉があるわ」
ルーシェは、白妖の泉があるであろう崖の真下を指さしながらダンテに告げた。
ダンテは、彼女の指差す方向に目線を向け、意味深に手を徐ろに顎に添えた。
「この下に白妖の泉があるのか……なるほど」
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