53_不穏な神殿

 嫌な予感がする……。


 目の前の扉から漂うただならぬ気配を感じ取り、ダンテは虹の神殿の中に入ることを躊躇していた。


 大概、この類の嫌な予感は見事に的中する。ダンテは、このような感覚に陥ったことが度々あったが、どれもなんだかの形で的中していた。今回も例外ではないはずだ。


「魔族は、倒したし。もう脅威は去ったはずよ。まさか、この神殿の中に、何か別の脅威が待ち構えているっていうの?」

 

 神殿に入るのを躊躇しているダンテの様子を気にかけて、メイテツは問いかける。


「分からない……。だけど、警戒したほうがいい」


 ダンテは、メイテツの言うように、魔族の脅威は去ったにもかかわらず、依然として胸騒ぎが止まらない。具体的なことは分からないが、やはりここは素直に自分の直感を信じることにした。


 息をスゥーと吸い込んで気持ちを落ち着かせると、これから訪れるであろう災難に備え集中力を高める。


「魔族を倒したばかりだと言うのに、休む間がないわね」 


 メイテツは、若干ため息混じりの声で言った。彼女は立て続けの戦闘に一時の休息を求めている様だった。その気持ちは、ダンテも同じだ。


「そうだな、この胸騒ぎが単なる杞憂で終わることを願うよ」


 ダンテは、覚悟を決めると虹の神殿の扉の取っ手に手をやり開けると、前回と同様に凄まじい風がビュッと吹き荒れる。その直後、あっという間に彼の身体は、漆黒の暗闇の中へと吸い込まれていった。


 吸い込まれた暗闇を抜けると、神殿の中の白い光が包まれ、神殿内部の光景が眼前に映し出される。


「……そんな……何があったんだ」


 目の前の光景にダンテは佇み、思わず湧き上がる感情が口から漏れる。


 神殿に避難して来た村の人たちが傷を負って何人か地面に倒れていた。


「うう……」


 倒れてはいるが、かろうじて意識が残っている人もいた。ダンテが入ったのに気づいて、目を覚ましたようだ。


「大丈夫か、誰に襲われたんだ!」


 ダンテは、心配そうに目を覚ました村人の男に近寄り、話しかけた。


「金色の剣を持った男が突然暴れ出したんだ。奥の方に、向かった。気をつけたほうがいい……」


 村人の男は、傷の痛みに耐えながらなんとか状況を伝えようとする。


「金色の剣を持った男……。そいつがこんなひどいことを。ありがとう。ここに治癒師の男性がいるはずだ。探してくるよ」


 ダンテは、男性に感謝の言葉を言うと神殿の奥の方に向かった。


 金色の剣の男……。まさかな。


 ダンテは、男性の語った男の特徴が妙に頭に引っかかったが、神殿の奥へと足を進める。

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