海です!

 とりあえず私たちは隣町に移動することにしました。

節約のために徒歩です。

徒歩です……。


プロテインを飲んだので筋肉痛は大丈夫ですが、昨晩ずっと歩いていたのでもう歩くのに飽きてしまいました。


購入した運動靴の調子は絶好調ですが、足を動かすのが億劫です。


「ねぇバウワウ。私の代わりに歩いてくれない? それと小腹が空いたから私の代わりにご飯を食べて」


「僕が代わりにしたってしょうがないでしょ。いいから文句言わずに歩いて。僕だってこんな小さな可愛い足で頑張って歩いてるんだから」

「はぁ……。クソだるいわね」

私がため息をつくと、つられるようにバウワウもため息をつきました。


「にしても言葉遣いが聖女のそれじゃないな」

「だって口が悪い人に育てられたんだもん」


「あー。なんか昔そんなこと言ってたね。アルマって誰に育てられたんだっけ?」

「婆ちゃん」

「婆ちゃんかぁ。僕にも婆ちゃんっているのかな」


「どうかしらね。バウワウは今何歳だっけ」

「60年は生きてるよ」

「じゃあもうあなたがお爺ちゃんじゃない」

「お爺ちゃんにもお婆ちゃんはいるでしょ」

「確かに」


「僕は子猫の時から一匹で生きてきたからなんか羨ましいな。人間って基本的に大人になるまで誰かしらに育ててもらえるもんね」

「野生動物は大変ね」

「大変だよぉ。日々命がけ」

「へぇー」


「縄張り争いとかで同族と戦うこともあるし」

「そっかー。でもバウワウは喧嘩なんてできないでしょ? 弱そうだもん」


「そんなことないよ。昔はやんちゃしたもんさ。ブイブイ言わせてたんだよ?」

「うっそだー」

「ほんとだよ」

とかなんとか言ってるうちに隣町に着きました。


ちょっと高台に出たようで、町が一望できます。

そしてその先に……

「海だ……海だ! 海が見えるよバウワウ!」

「はいはい海ね」


海です!

なんか疲れが吹っ飛びました!


そしてその海の向こう側から街が迫ってきています。

よく見ると、海の下には薄暗い影のようなものがあります。


きっとクジラです。

元気ちゃんたちの話はマジでした。

クジラがこの町に迫ってきています。


「うぉ。なんかすごい違和感がある光景だね。本来海があるはずの場所に街が急に現れた感じ」


バウワウが私の頭にまでよじ登って、改めて海を見ながら呟きました。


「海岸沿いまで行ってみよう!」

「そうだね。行ってみようか」

「……その前に頭の上から降りて」

「ちくしょう。このまま連れて行ってもらおうと思ったのに」

「私の首がもげるから無理。はい降りて」


私はバウワウを抱えて地面に降ろしてから海岸に向けて歩き出しました。

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