さすらいの鬼

お詫び 1話飛ばしてしまいました。

前話 命 をまだの方は戻って読んでいただけると嬉しいです。ー



結局、この1週間、といっても出勤したのは4日だけだけどダンジョンには潜らなかった。

流石に職員が3人も亡くなったので、防衛機構のお偉いさんが会見も開いて世間に状況説明を行ったらしい。

聞き取りや、映像も検証したらしいけど結局あのオーガ達がなぜ5階層にいたのか、なぜオーガキングが突然現れたのは分からずじまいだった。

5階層に調査部隊も向かったようだけど特にイレギュラーなことは起こらなかったらしい。

ダンジョンにはモンスターがいて常に状況が変わる。

そんな場所でいくら調べても何もわかるはずはなく現在に至っている。


「湊隊長、これで終わりですか?」

「はい、今あるのはこれで終わりです。修太朗さんのおかげで捗りました」

「いや、これは普通に多くないですか?」

「まあ、私もあまりデスクワークが得意なほうではないので溜まってしまって」

「俺なんか報告書くらいなのに、隊長になると書類多すぎでしょう」

「う~ん、それは思わなくはないけど、仕事だから」


この1週間何をしていたかといえば湊隊長の書類仕事の手伝いがメインだ。

俺は報告書を書いてしまえば他にやることがない。

なのに湊隊長だけが黙々と書類と格闘していたので、お願いして少し手伝わせてもらっている。

今回の件でいつも以上に書類仕事が増えたらしいけど、サラリーマンをやっていた俺から見てもその量はかなり多い。

俺が帰った後も湊隊長だけいつも残っていたのはこれのせいだ。

凜をはじめとする後藤隊の他のメンバーはみんなPCワークと書類が苦手とのことで、湊隊長が頑張ってくれていたらしい。

桜花さんがPCワーク苦手だとは思わなかった。

手伝いをして分かったが湊隊長も入力が速い方ではない。

防衛機構の本文はダンジョンでモンスターを倒すことなのだから、それは何もおかしい事ではない。

なので、俺が入力を手伝うことで溜まっていた仕事を一気に消化できて良かった。

ただ、防衛機構もお役所然としていてもう少し効率化、簡略化が出来るのではと思う箇所がいくつもあった。

隊長というただでさえ負担の大きい役職についている者にこの量をダンジョンに潜った後にやらせるのはよくない。


「俺が言うのもあれですけど、がんばり過ぎはよくないですよ」

「大丈夫です」

「迷惑じゃなければ、今後も手伝わせてもらえると嬉しいです」

「そんな、迷惑なんてことは」

「こう見えてサラリーマン時代は入力の鬼なんて呼ばれたりしてましたからね。こういうのは得意なんですよ」

「ふふっ、入力の鬼ですか。それって絶対嘘ですよね」

「いやいや本当ですよ。決算期とか12時間耐久とかざらにありましたから。是非見てもらいたかったなあ」

「なにかレースみたいですね」

「ええ、さすらいのレーサーとも呼ばれてましたから」

「さすらってはダメなんじゃ。修太朗さん、冗談ばっかり。でも、また修太朗さんに助けられましたね」

「こんなの助けたうちに入りませんよ。俺がどれだけ湊隊長に世話になってると思ってるんですか」

「ありがとうございます」

「こっちがありがとうですよ」


今回の手伝いを通じて、以前よりも湊隊長と会話する機会も増え、今まで以上に打ち解ける事が出来てよかった。

湊隊長は根を詰めるタイプのようなので、少しは助けになれればと思う。


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