眠れぬ夜
部屋に着くとほぼ午前零時となっていた。
普段なら、コンビニ飯と酎ハイを飲むところだけど今日はそんな気も起らない。
シャワーだけ浴びて、さっさと寝る事にした。
ベッドで横になっても目を閉じると今日の事が脳裏に浮かんでくる。
特に鮮明に浮かぶのはゴブリンキングとの戦い。
いや、正確には戦いじゃない。
オーガキングが隊員を潰したあの瞬間だ。
突然の事で俺は全く反応できなかった。
あれがもし俺に降りかかっていたら、まったく同じ運命を辿っていたのは間違いない。
俺がこうやって戻ってこれたのは、ただの運。
はじめて人が殺される場面を見てしまった衝撃。
自分が死んでいたかもしれないという恐怖。
湊隊長や桜花さんがそうなっていたかもしれないという現実。
そのすべてがごちゃごちゃになって頭の中をぐるぐると駆け巡り眠ることが出来ない。
この前市川さんに、続けることを勧めるような発言をしてしまったが軽率だった。
市川さんの不安は当然の物だったんだ。
俺は?
俺はどうなんだ。
このまま続ければまた同じような場面に出くわすかもしれない。
その時にまた運が味方してくれるとは限らない。
運が悪ければそれは死。
サラリーマン時代には感じる事のなかったリアルな死。
怖い?
もちろん怖い。
自分が死ぬことが怖くないわけがない。
だけど、俺が辞めたとしてもダンジョンがなくなるわけじゃない。
モンスターが消えるわけじゃない。
防衛機構はあり続けるだろう。
きっと、凜や湊隊長も今まで通りダンジョンに潜るだろう。
俺がいないところでそれが起こって、後藤隊に何かあればどうだ。
きっと、後悔しかない。
別にイキってるわけでも恰好つけてるわけでもない。
自分に関りがあった人がそうなるかもしれない。
自分にそれをどうにか出来るかもしれない力があって、自分がそこにいない。
それもまた怖い。
すごく怖い。
ヒーロー物にも心の葛藤を描いたのはあったけど、完全に逃げたのは無かったな。
人生50年。
昔はそんな時代もあったらしいけど、俺だとあと10年。
ここから逃げて過ごす10年で俺は何をする?
またどこかの会社に再就職してシングルライフを送るのか?
それも悪くはないかもしれない。
だけど、それなら最初から前職を辞めなければよかっただけだ。
戦国武将のように一旗揚げたいわけじゃない。
後世に名を残したいわけでもない。
俺は誰かの、俺に関りのある人の助けとなりたい。
子供の頃からヒーローに憧れていた。だけど本当は画面の中のヒーローみたいにカッコよくなくてもいい。
凄くなくてもいい。
いざという時に目の前の人を助けることの出来る力が欲しかった。
魔法が使えるようになった今の俺にはそれがある。
なら、どうする。
ここで降りるには早すぎる。
これからも俺の力が及ぶ限り、モンスターを倒しみんなの力となりたい。
今日初めて中級魔法を使ったけど、俺は自爆していない。
きっとこの力を使いこなせばもっとできる。
そんな事を考えてるうちに外は明るくなってきたようだ。
ただ、怖さがなくなったわけじゃない。
怖い。怖いけど、それでも進むだけだ。
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