第16話 歓迎会

「あ〜よかった。わたしのお酌はどうですか?」

「あ、ああ、普段お酌なんかしてもらうことがないので、お酒の美味しさが更に深まる気がします」

「花岡さん、お上手ですね」

「いや、本当ですよ。普段は手酌か缶酎ハイですからね。こんなに若くて綺麗な方にお酌をしてもらうなんて恐縮です」

「綺麗……」


冗談抜きで、こんなに若くて綺麗な人にお酌してもらう機会なんか滅多にない。

ちょっと申し訳ない気もするけど、『俺の酒蔵』はまだ残っているようなのでありがたく飲ませていただくとしよう。


「あははは〜花岡さん、オカシ〜。そんなことってあります? やっぱり大人の男の人って楽しいですね。もしよかったらこの後どうですか?」

「響子〜抜けがけしすぎ。わたしもどうですか〜?」


『俺の酒蔵』が効いたのか俺以外の四人は酔いが回ったようで完全に出来あがってしまっている。

美味しすぎるお酒というのもある意味問題ありかもしれない。

俺もそれほど強い方ではないが、今日は若い女性ばかりなので緊張からかいつもより酔いが浅い。

というより四人がこの状態で俺が酔うわけにはいかない。


「ぶっちゃけ、私たちどう思いますか?」

「え? どうって」

「女としてです。花岡さんからみてどうですか!」

「そりゃあ、俺みたいなオッサンからしたら四人とも若くて綺麗ですし、キラキラして見えますよ」

「本当ですか?」

「嘘なんかつきませんよ」

「みんな〜花岡さんがわたしたちのこと若くて綺麗でキラキラしてるって!」

「やった〜!」


料理も美味しいしお酒もうまい。みんな優しくて楽しいけど、若い子たちのテンションが高すぎてついていくのが精一杯だ。

だが、お酒とは怖いもので酔った彼女たちは無防備に俺へとボディタッチを繰り返してきた。


「やだ〜花岡さん。結構鍛えてるんじゃないですか〜」

「いやいや、ほとんどなにもしてなかったんで、ただの贅肉ですよ」

「え〜こことか結構引き締まってるじゃないですか〜」

「本当だ〜。うちのお父さんと全然違う。やっぱり花岡さんだ〜」

「い、いや、三宅さん。そこはちょっと」

「花岡さんっていい匂いがしますね。う〜んいい感じ」

「ちょ、ちょっと中塚さん。俺を匂っても加齢臭しかしませんよ」

「え~全然違いますよ~」


こんなやりとりがしばらく続いた。

俺にとってはある意味天国である意味地獄だった。

 この年になると普通に女性と話をするぶんには特に問題はないけど、さすがにこう近距離で接触があると辛い。

別に俺は女性に縁がないだけで興味が無いわけじゃない。

ただ、酔いにまかせて調子に乗ると明日からが恐ろしい。

鋼の意志で彼女たちのボディタッチを耐え忍ぶ。

そうこうしているうちに、そろそろお店を出る時間だ。


「ちょっとトイレに行ってきます」


俺は伝票を手に取って先に会計を済ませておく。

五人で結構飲み食いしたのでそれなりの金額だったが、今日は中塚さんたちが俺のために設けてくれた席だったしありがたい限りだ。

あとは彼女たちをタクシー乗り場まで送っていかないといけないな。


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