第25話 「「あの時の!」から始まる関係」を満喫しようと思います


「ノワールの指揮官のフィレ様、ですよね?」


 普段のフィレとは様子が違うことに戸惑いつつも、アバウトはそう答えた。


「それはそうなんだけど、そうじゃなくて...。1か月前のテラナスの戦いで、私が君を...その、助けて」


 アバウトの脳内に、微かにあった記憶が鮮明にフラッシュバックした。

 魔王をやめたその日、目が覚めれば戦場にいた。爆風に襲われる直前に女性が助けてくれて...そうそう、夜空には大きな花火が上がっていたんだ。


「そういえばあの時、確かに誰かが助けてくれて...え!?もしかしてその人って...」

「私だよ!やっぱり君忘れてたんだ」

「すみません!あのとき意識がはっきりしてなくて...言い訳ですよね。ごめんなさい。あの時助けていただいて、本当にありがとうございました」

 アバウトは深く頭を下げた。

「あ、それは全然いいの。ただ、覚えてるかなって気になっただけで...」

「あ、はい...」


 2人の間にはしばらく沈黙が流れ、気付けばルミナス城の外にある大扉の近くまで来ていた。もう少し先には、エレナが座って待っててくれているが、まだこちらには気付いていないようだ。


「あの、フィレさん。本当にありがとうございました」

 アバウトはフィレにもう一度頭を下げた。

「うん、またね」

 フィレは胸の前で手を小さく振ってくれた。


 アバウトがきびすを返して歩き出したそのとき、フィレは「あ、あの、アバウト」と呼び止めた。そして、

「私と2人きりになったこと、エレナちゃんに言わないでくれる...かな」

と小声で言った。


(あいつ、フィレさんに何か言ったな)


 フィレさんと2人だけの秘密。アバウトは少しドキドキした。

「はい、もちろんです!オレからも1ついいでしょうか?」

「うん」

「今度街で見かけたら、その...声をかけても、いいでしょうか?」

 アバウトの言葉に、フィレは大きくうなずいた。


 こうしてアバウトとエレナの入隊試験は無事終了したのであった。




「あのぉ...レアデル様」

「どうしたの?シスタン」


 アバウトとフィレに続き指揮官たちも出て行った。

 そして部屋には、レアデルとシスタンが残された。


「再び奇襲の気配が、するんですけども...」

「またテラナス?」

「は、はい。兵は1か月前のときよりも少ないようですが、今回は統率者が前に出てくるかも...。前回のでエノとオートの境は突破できないことを学んだはずなので、海岸沿いのノワール側から攻めてくるのかなー、なんて...」

「わかったわ。ありがとう、シスタン」

 そしてレアデルはフィレに伝えとくね、と優しくシスタンに残し、部屋を出ていった。



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